牽制
本日最初の投稿です。
「アルグランデ、アリス嬢。来てくれて有り難う。」
ウィルが “皇太子の微笑” で挨拶を返してきて、学園とは違う笑い方にアリスが恐縮している。
いくら幼馴染で親友であっても、公の場所では普段のようの愛称で呼ぶことはないし、敬語を崩すこともない。
それでもウィルがアリスを名前で呼んだのは、俺とアリスの婚約を自分が認めているという周囲への牽制だろう。
普通は「アイティヴェル辺境伯のご令嬢」と呼ぶのだろうね。
ウィルには目配せで感謝だけして、その場を離れることにした。
今日の夜会には、聖女が来る。
俺に寄ってくるだろうから、その対策はしてあるとウィルが言ってた。
俺も一応対策はしてあるし、ある程度は任せよう。
「アリス。料理を食べる? 食べ放題だ。それとも、夜の庭園なんて珍しいから散歩でもする?」
「はははっ! 食べ放題に散歩って、夜会を婚約者との皇宮観光デートと思っているのか? アル」
笑い声と共に近寄ってきたのは、レオナルド・アグニエイト。
嫌味なわけではなく、本当に笑っているようだ。
エスコートしている相手は、彼の妹君のシャルロッテ・アグニエイトのようだ。
さっきと同じように、アリスの可愛さにシャルロッテ様は陥落した。
アリスに美しい髪について熱心に話しているようだ。
アリスはオシャレが好きみたい。
こちらも相談に乗るということで話が纏まっていた。
会場に音楽が響き、王族たちのファーストダンスが始まった。
ウィルは従兄妹殿と踊っているようだ。
大公家、公爵家が参戦していく。
レオナルドと然り気無く距離を取ったことに、アリスが不思議そうな顔をしているので「目立つ瞬間は傍に居ない方が良いからね。」と説明する。
ダンスを誘う瞬間は、周りから注目されてしまう。
その時に四大侯爵家が近くに居るのは、権力の集中に思われてしまうことがある。
面倒だが仕方ない。
侯爵家の当主たちがダンスに加わり、そろそろ俺たちの番だ。
一度アリスから離れ、それから手を差し出し礼を取る。
「俺と踊って頂けますか?」
アリスが手を重ねて、「はい」と返事と微笑みをくれた。
夜会が始まってからずっと装備している “淑女の微笑み” ではなく、本当に自然な笑顔だった。
本当に嬉しい。
ダンスなんて退屈なだけだと思っていたけど、アリスが楽しそうで俺も楽しい。
終わってしまうのが辛くて、そのまま二曲目に入った。
アディだって侯爵令息。