ファンブレイブ侯爵家エドワード
□ファンブレイル侯爵家エドワード
※本日2回目の更新です。
会場にアルグランデとアリス嬢が入って来たのを、婚約者のアンジェと共に確認した。
学園に入学してすぐ、ユアランス以外の侯爵令息が皇太子殿下に召集された。
全員がユアランスの婚約解消騒動を聞いて、俺たちはとてつもなく衝撃を受けた。
奴が国から居なくなってしまったら、帝国としての損失は計り知れない。
それに、あんなに毎日毎日「アリスが」「アリスに」「アリスと」とアルは言って過ごしてきたのに。
アルからは、過度な協力は圧力になるからやめてくれと言われた。
殿下はそう仰り、二人で解決すべき問題に関しては発言に注意するように指示された。
「あの御方がユアランス様の愛しの姫君なのね。すごい。なんて美しい‥‥‥ 」
アンジェは見惚れている。
殿下の指示で婚約者や家族には事情の説明を済ませており、さりげない協力を願うことばかりだ。
「どういうことなの‥‥ あの緩急ある美しい身体に、あの白くて綺麗な肌。それにあのドレスは‥‥ なんて素晴らしいの。」
アルがデザインから相談して贈ったというドレスは、流行りに敏感でオシャレが好きなアンジェから見ても素敵な物らしい。
私としては、五年も空白があってそんなことよく出来たな、というのが正直な感想だった。
アルだって、いつも以上に気合いが入った衣装でいつも以上に暴力的な破壊力の美形だ。
そんなアルには無関心で、アリス嬢にしか興味がないアンジェが私は好ましい。
それにしても、あのドレスは独占欲の塊だな。
アルの色ばかりが使われていて、アルだってアリス嬢の瞳の色の宝石がやたら目立つ装飾を使っている。
なるほど、桃色でもアルくらいの美形なら違和感ないのですね。
アルの周りはちょっとした騒ぎになっているようだ。
アリス嬢に微笑むアルに、令嬢たちが真っ赤になり倒れそうな人まで居る。
対して、アリス嬢を見ている男性も多いので、アルが笑顔のまま警戒を強めている。
アルたちは殿下の挨拶の列に加わるようなので、私たちもタイミングを合わせて動く。
俺たちは列で鉢合わせした振りをして、アルに合流して挨拶を済ませた。
「十分すぎる程に美しいのに、笑ったらこんなに可愛いなんて‥‥‥!」
アンジェが思わず頬を染めて声を漏らしたことに、アルは満足そうだがアリス嬢は分かっていないようだ。
私はアリス嬢への不躾な視線を遮るための盾役を、皇太子殿下に指示されている。
四大侯爵の嫡男が二人揃ってるだけで、おかしな会話をする奴は減らせるし、アンジェは幸いにも協力的だ。
アルの国を出る宣言は置いといたとしても、アルを狙う聖女に絡まれる確率は高いですからね。
「あの、凄く白くて美しい肌が羨ましいのですが、やはり日射し避けを徹底されているのでしょうか?」
アンジェがアリス嬢に尋ねた。
婚約の話が浮上した際に、アンジェは肌が弱いことを気にしていて、子が出来ても同じ悩みを持たせてしまうかもしれないと打ち明けてくれた。
私は素直さが好ましく、婚約を成立させ、それ以降はアンジェのために肌に優しい布を探す努力をしている。
そんなアンジェが、令嬢と肌の話をすることは絶対になかった。
何を言われても嫌な捉え方をしてしまうから、話題にならないように努めている、と言っていたはずだ。
「いいえ、私は領地では外に居ることも多かったです。」
アンジェの肌の弱さにきっと気付いているだろう。
隠しているが首のところが赤く荒れていて、本当は今日ドレスを着るのが嫌だと言っていた。
「ですが、私は自作した化粧水と保湿のクリームを使っております。」
え、なにそれ。
アルは「そうなの?」と声をかけているので知らなかったようだが、唯ずっと機嫌が良さそうにアリス嬢を見ている。
「美容に関する勉強も領地でしたって言ってたよね。アリスは凄いなぁ。」
アルのこの発言にアンジェは飛び付き、アリス嬢に今度相談に乗って頂けないかとお願いしていた。
化粧品というのは、膨大な知識と優れた技術が必要であり、私であっても婚約者に合う品を用意することは叶わなかった。
それだけ貴重な知識と技術であり、秘匿が必須とも言える分野だ。
しかし、アンジェのためだ。
私からもお願いしようとしたら、その前にアリス嬢が笑顔で快諾していた。
‥‥‥‥アルもアリス嬢も、物の価値に疎すぎではないか?
この件は後程殿下に報告が必要だが、我の婚約者が嬉しそうなので良かった。
殿下へ公式の挨拶の最中、後ろから「きゃぁっ」という複数の声が上がった。
思わず振り返ると、アルがアリス嬢の手を取ってキスをしていた。
「大丈夫だ、俺が居る。」
アルがそう言って、色気溢れすぎてる笑みをアリス嬢に向けた。
これは、令嬢たちが悲鳴をあげるのも無理はないだろうな。
アルグランデ・ユアランスは、見目麗ししく、魔導騎士としては酷く優秀、学園には皇太子殿下や【知】を司る侯爵家の自分を抜いて主席での入学。
そんな男が平然と婚約者を口説いている。
魔力が優しく揺れて蜂蜜を思わせる程に甘い瞳、無愛想の見本なような男が婚約者にだけ向ける笑顔。
その結果が、これか。
令嬢たちの顔は真っ赤だ。
当然、アリス嬢も。
挨拶を済ませて、アンジェに何故話題を振ったのか尋ねてみた。
美しさを前に堪えられなくなったと言い、相談する機会が実現するのを願っているようだ。
そのために動くくらいはしよう。
アルに声をかけることも、アリス嬢に声をかけることも私なら身分的に問題ないからな。
なんとか二人で有意義な話をしてほしい。
エドだって格好良い!
アンジェだって可愛い!
そういう話も今後できたらいいな。