皇太子殿下ウィリアム ④
□皇太子殿下ウィリアム
前回の続きです。
帝国で唯一、高位治癒魔法を使うことができる女性。
マリーナ・レイマリウス男爵令嬢。
神殿から認められた聖女でありながら、治癒の代金として金品を強要しているという噂が流れたことで私が調査に出ることになった。
神にお仕えするとか言いながら、神殿の目を盗んで報酬をもらってるとかダメだよね。
彼女が私や四大侯爵令息にすり寄って来るのだからと、陛下の命令である。
それに歳が近い私たちが確実に被害を受ける事案だとも言われた。
侯爵令息たちには、彼女を邪険にせず証拠を掴むように指示を出し、状況に合わせてその都度命を出していた。
彼女が特にお気に入りだったのが、よりによってアルだった。
アリス嬢一筋の難攻不落の要塞に、何故振り向いてもらえると思ったのか本当に分からない。
それから五年前の事件が起こった。
アルを狙った刺客が引き金であったが、結果としてアリス嬢が領地に帰ることになったため疑惑がかかっている。
「相手が聖女なだけに、慎重さを重視した調査だったんだ。アリス嬢を傷付けたのはアルではなくこの私だ。すまなかった。」
私が頭を下げたことに、ミハエルはハッとして止めに入ったが、対してアルは放心している。
ミハエルが言っていたアリス嬢を泣かせたという過去に傷付いているのだろう。
「婚約解消の申し出は父を私が説得してユアランスに届けたんです。認められなかったと聞きましたが、アリスにはそれを隠し、心の療養をさせることにしました。しかし、ユアランス様は‥‥ アリスを‥‥ 」
「アリスは‥‥‥ 」
アルが重い空気で言葉を発した。
「領地に恋人とか、想い人が居たのでしょうか?」
息を飲んだ。
喉が鳴るほどの緊張は、他の侯爵令息も同じようだ。
もし、アリス嬢との未来を望めないなら、アルは宣言通りに国を出ていってしまう。
「それはない! アリスは好きなことをたくさんして過ごしていたが、恋愛なんて絶対ありません!」
ミハエルは真剣だ。
二年前にミハエルが学園に入学するまで、ずっと領地に籠ってアリス嬢と過ごしたのだろうからきっと事実だ。
「「「あ~、良かった~~」」」
侯爵令息の揃った声に、ミハエルが大変困惑した表情になった。
「ミハエル。こいつはアリス嬢との未来がないなら国を出ていくと宣言しているんだよ。」
ミハエルに声をかけたのは、【剣】の侯爵家アグニエイトの長男、レオナルドだ。
ミハエルの学友でもあり、気安く話せる程度には親しいようだ。
一方ミハエルは絶句。
「当然だ。アリスが居ない未来に価値はない。」
アルは誰とも目を合わせることもなく、平然と言い放った。
「こらこら、この国随一と言われる魔導剣士がそんなこと言うものじゃないよ。」
嗜めるように言うのは、【整】の侯爵家イグニドアの長男、リンベルトだ。
まだ入学前でありながら非常に優秀であり、学力の高さは群を抜き、更に応用力もある。
【知】と【整】は、どちらも参謀的な立場になり表と裏から国を支える存在。
【知】は王の側近として傍に仕え支える役目があり、【整】は諜報が主な仕事だ。
「俺は側近に指名された際に、どんな時もアリスが最優先と伝えてある。」
ミハエルの整った顔が崩れて口が開いたままになっている。
側近に指名されて、逆に条件出すなんてアルくらいだからね。
アルはアリス嬢以外には無愛想だから、こんな一面を見たのはミハエルにとって衝撃的だろうな。
我々は慣れたけど。
アディはウィルの側近が嫌だったのではなく、まずはアリスとの関係修復と婚約者の地位確立が目標でした。
さて、次の話はなんとあの人です。