表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
159/159

アリスの誕生日





 今日はアリスの誕生日。


「この舞台、観に行きたいと思ってたのです。」


「原作が好きだと言っていたよね。」


「覚えててくれたなんて、嬉しいです!」


 笑顔が眩しい。

 このタイミングでユアランスに来てくれと、ずいぶん前から打診していた甲斐があった。

 快諾してくれた劇団に感謝だな。


 アリスは涙ぐんでクライマックスを見守っていた。

 楽しめたようでなによりだ。



 次に向かうのは、ユアランス領が誇る広大な湖だ。

 騎士を配置して周りに人が居ない状態になっているが、それが逆に野次馬を増やしている気もする。


「アリス、離れていて。」


「はい。」


 魔力を集中させ、それを一気に開放する。

 規模が大きいので、短縮詠唱くらいはしておこう。


「【 “ 凍てつけ ” 】」


 湖の中央から氷が張っていき、その周りをフローが飛ぶと氷の結晶が舞い、ヴィーツアの走る足元が凍っていく。


 俺の側ではなく、中央から凍る演出は、しっかり練習した。

 それからこれも。


 湖の中央に、氷で大樹を作っていく。

 大樹には、氷の花を咲かせて、それが舞うと綺麗に見える。


「すごい……」


 俺の瞳から熱が消えていくのが分かる。

 金色は殆ど残ってないだろうと、鏡を見なくても分かる。


「さて、アリス。」


「きゃっ」


 アリスを抱きしめて足元を浮かせ、魔法で靴に刃をつける。

 そっと降ろすと、アリスは一瞬ふらついたがしっかり立てている。


「では改めまして。俺と氷の湖デートはいかがでしょうか?」


「是非!」


 アリスはスケートが初めてらしく、最初こそは転ばないように傍にヴィーツアが付いてまわったが、すぐに覚えていた。


 アリスが氷の上を舞う姿は美しくて、氷の精霊のようだ。


 そうこうしている間に、湖には人が集まっていた。


「これが領主様一族の魔法なのね」


「有り難や」


 拝むのはやめてほしい。


「氷のお姫様、綺麗!」


 アリスを讃える声も多い。

 わかる。



 端に用意してた四阿で休むタイミングに合わせて、領民たちが湖に入れるように開放した。


 父上に湖の使用許可を求めたときの条件が領民への開放だったので、刃のついた靴やソリなどの準備は事前にしてあった。

 騎士と使用人が案内を開始している。


 俺としては、街でアリスがお世話になったので、領民たちへのお礼も含めている。


 このために防寒具販売や、温かい食事の販売も用意していた。

 湖の利用は無料だが、故意な破損行為の禁止など注意事項の案内が徹底されているようだ。


「皆が楽しそうで、嬉しいです。」


「喜んでくれて良かった。」


 優しい瞳で湖を見つめるアリスが、本当に愛しい。

 練習して、準備して、ほんとに良かった。



 四阿には簡易的な衝立を用意していて、俺たちは早い夕食を済ませる。

 保温機能のある魔道具も用意したので、当然温かいメニューだ。



 四阿から出ると、外はもう薄暗かった。

 すぐに真っ暗になるだろう。


「綺麗」


 事前に灯りを設置していた。

 湖の中にも、水濡れに強いライトを設置して足元を照らしているので、光る氷のようだ。

 湖の周りには、オレンジ色の温かみのある灯りを置いている。

 雰囲気がでるように楽団も用意した。


「貴女と踊る栄誉を私に下さいますか?」


 氷まで降りて手を差し出すと、アリスは淑女の礼をして手を取ってくれた。


 手を繋いで、俺たちは滑っていく。

 やがて本当に踊っているようにステップを踏む。


 何故か領民たちが湖から上がっていき、俺たちを見守るようになっていた。

 これは絶対、アリスが転倒しないように気を付けないと。


「寒くない?」


「平気です! 楽しいです!」


 俺のお姫様は元気いっぱいだ。

 アリスの手を引いて大きく回転させると、更に楽しそうに笑ってくれる。


 最後は、礼を取って、ダンスの後にように終える。

 途端に領民からワッと拍手があがった。

 アリスが笑顔で手を振ると、悲鳴めいた歓声まで起きた。


「皆、聞いてほしい!」


 拡声魔道具を使用して声をあげると、皆が静かにしてくれるが、楽しそうな雰囲気は変わらないように見える。


「今日は、我が愛しの婚約者の誕生日で、彼女に喜んでほしくてこのような場を用意した。」


 どよめいている。

 そんな場所に入って良かったのか? という反応だ。


「皆が楽しく過ごしてくれたのことで彼女も喜んでくれた。しばらくは維持するから、安全に楽しんでほしい。」


 演出として指を鳴らすと、大樹から氷の花が舞った。



「お誕生日おめでとうございます!!」


「お幸せにー!!!」

 

 拍手が起こり、アリスの誕生日を祝う声が飛び交う。






 それからは、四阿に下がって仕切り直しだ。 


「アリス。誕生日おめでとう。受け取ってくれますか?」


「はい! 開けても良いですか?」


「もちろん。」


 硝子の工芸品に見える魔道具の置物だ。

 硝子の中に、この湖に作った氷の大樹そっくりの硝子細工を作り、大樹の花は宝石を特殊加工して作った。


 想い出を閉じ込めたつもりだ。

 正確には、作った物に合わせて今日の演出をしたわけだけど。


「綺麗………… 素敵です」


 アリスの声が震えている。

 喜んでくれたようだ。


 アリスにすっと身を寄せ顔を近付けると、アリスは受け入れるように目を伏せてくれたので、優しく唇を重ねる。


「こんな素敵な誕生日にしてくれて、有り難うアディ。」


「これからもずっと一緒にお祝いしよう。」


「はい! 楽しみですね。」



 こうして俺たちのユアランス領での休暇は、なんとか平和に終わった。







これにて五章完結です!

ここまで読んで下さり有り難うございました!


六章では、婚約者の居ないあの人に色々あったり、

聖女様失踪の詳細について書いていく予定です。

更新までお待ちください!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ