護衛は必要
帰ってきたら、祖父母とアリスが打ち解けていた。
驚くことに、祖父母とアリス、双子の五人で街に出かけたりもしたらしい。
ちょっとズルくない?
「おかえりなさい。」
「ただいま。」
そう思っていたのに、アリスが俺を抱きしめて迎えてくれたので、邪念はどこかへ旅立った。
見送りのときのお返しにアリスの頬にキスしたら、アリスが赤くなって笑うので、俺は何度も繰り返してしまった。
「アル、そろそろアリスを離しなさい。」
「父上、野暮ですよ。」
「ノアルトはどうして兄贔屓が過ぎるのだろうな。」
最後に、と思って唇に軽く唇を重ねて離すと、アリスが真っ赤になってしまって離せなくなってしまった。
可愛くて、この顔は外に出せません。
「アル兄さま〜!」
「おかえりなさい!」
グレンが俺に飛びついてきて、アレンがアリスに抱っこをせがんでいた。
ガバッとアレンを抱っこして上手く顔を隠しているが、アレンによしよしされているアリス。
アレンは気を遣って抱っこをせがんだようだ。
「アル兄さまがごめんね。ちょっと姉さまへの愛が重いのが弱点なんだ。」
アレンにそんなふうに思われてういたのか。
間違ってはないけど。
仕方ないから、グレンを抱っこしたまま空いている手で、アレンごとアリスを抱きしめる。
「アル兄さま、甘えん坊〜」
グレンに言われるのは、なんか違う気がする。
「あ! ユーリ、怪我はないですか?」
アリスが隙間からユリウスを見つけて声をかけ、俺の腕から抜け出した。
まぁ、弟だから許す。
「怪我……あぁ、うん、ない、かな。」
「正確には怪我はしたのですが、姉君お手製の傷薬を塗ったらほぼ治りました。」
「ノア兄様! なんで言っちゃうの!」
「正直は美徳ですから。」
腕に深い傷を受けたユリウスだが、今は傷跡がうっすら見えるくらいに治っている。
もちろん医師に見せるつもりだが、早い段階で出血を止めてくれたお陰で予後は悪くなさそうだ。
「美徳、ですか。ノア、私お願いがあるのだけど。」
「何でしょうか。姉君」
ノアはアリスに笑顔を向けて一礼する。
紳士的な態度である。
「お義祖父様、お義祖母様とお出かけの約束をしていて、アディを誘うつもりでいるのだけど、ノアも来ますよね?」
アリスは笑顔を向けているが、淑女の笑みである。
ノアの目線がふっと逃げた。
「いや僕は」
「来ますよね?」
「……………はい。」
ノアが負けたようだ。
強いアリスもドキドキする。
けど、このやり取りの真意が分からない。
ノアが珍しく苦い顔をしているし、何かあったのかな?
「ユーリ、貴方が全快したら行きますからね。」
「俺には選択肢すらないの!?」
「まさか拒否を?」
「しませんけど!」
「なら行きましょうね。」
ユーリでは勝負にならないな。
けど、ここまでするのだから何か意図があるのだろう。
俺はそっとアリスの傍に寄り、なんとなくアリスが更に強そうに見えるよう雰囲気を出してみる。
「兄上それはずるくないですか!?」
「ノア。俺のアリスがせっかく誘ってくれたのに、俺の弟であるお前が断るなんて無礼を働く予定が?」
「ありません!!」
俺たちの会話に、お祖父様は笑ってるし、お祖母様は驚いて目を丸くしていらっしゃる。
「父上、母上。おかしな息子たちですみません。」
「楽しいものを見せてもらった。」
父上のフォローが、何ひとつ庇えていない気がする。
ノアルトは大人びてるから、この扱いは不服そう。
「お義母様、ノアルトはアルグランデが好きすぎて、ちょっとおかしいのですが、温かい目で見て頂けると助かります。」
「ノアルトは、可愛い性格だったのね。」
あ、もしかして、アリスとこの二組の夫婦は事前に何か話しているのではないのだろうか。
ノアは祖父母と仲が良くはなかったから、俺としてはアリスに何か策があるなら乗っかっておきたい。
夜、父上の執務室で報告を済ませ、何故かそのまま引き止められた。
「昔、父上がノアルトを後継者にと言ったのは、お前の体を心配したからなんだ。」
「そうですか。」
悪意があるとは思っていなかったけど、俺にとってはどうでも良い話でもあった。
言われたときも『そうなんだ』くらいにしか思ってなかったけど、それでも子どもだった俺は嫌われているのかもくらいの認識はしていた。
「興味ないって態度が露骨すぎる。父上はともかく、母上は傷つくと思うぞ。」
「誰に言われたからでもなく、自分で決めた道ですから。人からどう思われるかは重要ではありません。」
親友が、信念もいうものを教えてくれたから。
弟妹に情をもらおうとすることはなく、票を取るための駆け引きなんてない、いつも真っ向勝負のウィルは格好良い。
「お前は、何故急に跡継ぎになる決意をしたんだ? 前はもらえるならもらっとこうかな、くらいだっただろ。」
「俺はアイティヴェルのたった一人の姫君を嫁にもらいうけるのです。候爵位くらいはないとアイティヴェル一族は納得してくれなさそうですし、アリスを幸せにできる要素は全て持っておきたいですから。」
「要素って」
爵位を譲られなくても、ユアランスであることは変わらないし、新しい爵位を得るくらいは戦果を挙げればできる気がする。
けど、そんな新興貴族では【英雄のアイティヴェル】には釣り合わない。
国を守護する家門の生まれなのだから、死を覚悟して当然。
故になのか、魔力の多さが問題なのか、俺やノアルトのように、物事に関心の薄い人間が生まれることは多々あるそうだ。
ただ、今の俺には叶えたい未来がある。
親友を王にし、その国でアリスと生きていく。
そのためにできる努力はしたい。
「ところでお前、ヴィーツア様をアリスの元に置いてっただろう。父上が驚いていたぞ。」
「護衛は必要でしょう。」
危険があったのかと心配したが、双子が精霊の絵本を読んでいて興味を持ったので、アリスが願ってヴィーツアを双子に会わせたのだと言う。
そういえば、グレンもアレンも精獣に触れたことはなかったかも。
読んで下さり有難うございます。
本章ももう終わりが近づいてきました。