願いを込める
ユアランス領では、この時期に魔物討伐が恒例行事だ。
若手の冬期討伐経験のためだとか。
今年は指揮官を命じられていて、俺のもとにノアルトとユリウスが補佐として就く。
メンバーが過剰戦力な気もするけど、ユリウスの初陣になるから万全で臨むようだ。
「お気を付けて」
「うん。困ったことがあったら父上か母上に遠慮なく相談して。そう伝えてるから。」
「あの、アルグランデ様、そろそろ」
アリスを抱きしめて離さない俺に、騎士が声をかけてきた。
離れがたくて仕方ない。
この悩みは多分一生解決しない。
「お前、兄上と姉君の逢瀬を邪魔するつもりか?」
「ノア兄上落ち着いて下さい。姉様、絶対にアル兄上に怪我させたりしないから安心して。」
ユリウスは柔軟なようだ。
まぁアリスが待っていてくれるのだから怪我はもちろん、返り血を浴びるつもりもない。
「ユーリ。まずは自分の身を大切にして下さい。それとこれ、持っていって頂けると嬉しいです。」
アリスから事前に聞いていたし、俺もノアルトも同じ物を受け取っている。
「有り難うございます! アリス姉様、あの甘えん坊な弟たちをよろしくお願いします。」
「任されました。」
グレンとアレンには、アリスを守るように頼んである。
ふたりはアリスに懐いているし、ユアランスの子である以上邸内での権力は強い。
ぽやんとした印象の強い双子だけど、ノアルトが色々教えているようで、ユアランスとしの振る舞いはできるだろうと聞いている。
「アディ。これ私の宝物なんです。」
アリスが渡してくれたのはネックレスだ。
シルバーのチェーンの先に、小ぶりな濃桃色の宝石がついている。
………………宝石?
いや、石の中にアイティヴェルの家紋が見える。
というか、これ魔石では?
「預かっていて下さい。」
騎士の間で、無事を祈って、恋人や妻から大事な物を預かるのが流行っているとは聞いていた。
だからって普通こんな大切な物を。
家紋があるということは、間違いなく家族からの贈り物だ。
「御守り程度に思っていて下さい。つけてもいいですか?」
「あ、うん、もちろん」
膝を折り頭を下げると、アリスが腕を首に回してつけてくれた。
ドキドキして、心臓がちょっとまずい。
ちゅっ。
アリスが頬に…………… え? え!?
「貴方の助けになりますように。」
目を伏せてアリスがネックレスに願いを込める。
う、美しい。
魔力が溢れてきて、瞳がクラクラする。
顔を離したアリスは頬が色付いている。
帰ってきたら、今度は俺からキスを贈ろう。
「では、父上、母上。行って参ります。」
「え? もういいの?」
「あぁ。被害拡大なんてしてアリスに会えない期間が伸びるのは、絶対に堪えられないから行くことにする。アリス、お土産楽しみにしていて。」
これは本当にそう。
魔物は間引いておかないと、溢れて被害なんて出たらアリスの誕生日が楽しく過ごせなくなる。
「討伐任務で、お土産?」
ユリウスは検討がついてないようだが、ノアルトは何の反応もない。
「これより山岳部の魔物討伐任務に入る!」
俺が声を張り上げると、ワーッと声が上がった。
いつも思うけど、こういうの得意ではない。
参考にしたのは正直ミハエルだ。
辺境をおさめる武力集団を束ねるミハエルは、本当にカリスマのように感じたからそれを参考にしている。
仕方ないって分かっているけど、日程短縮できたらいいな。
読んでくださり有難うございます!