ユアランス侯爵家メイド ミミリィ
候爵閣下直々に、アルグランデ様のご婚約者様付きメイドになるよう申し付けられて七日ほどたった。
アリスお嬢様の朝は早い。
ユアランス候爵家にお嬢様は居ないけど、普通のご令嬢はもっとゆっくり起きるだろうことは経験から知っていた。
私はラヴィリン男爵家四女ミミリィ。
ユアランス候爵家本邸に仕えてわずか二年目。
「おはようございます。アリスお嬢様」
「おはよぅ、みみりぃ。」
起きてすぐなのに、お嬢様はぽやんとしていて、それもとても可愛いらしい。
ハンナ様曰く、しっかり目が覚めるのに少々時間がかかる御方らしい。
ご令嬢の寝起きは、モーニングティーなのかと思っていたのに、アリスお嬢様は白湯を飲まれる。
アイティヴェル辺境家では、先代夫人も、辺境伯夫人も、アリスお嬢様も皆こういう習慣らしい。
軽く身支度を整えて、アリスお嬢様はまず柔軟体操をします。
専用の敷物を持参していて、それを床に敷いて体を伸ばしていらっしゃいます。
終わる頃になって、部屋にメイドが現れます。
「アリスお嬢様。本日もお花が届いております。」
毎日アルグランデ様からお花が届きます。
お嬢様は花瓶に生けたり、押し花にしたりポプリにしているそうです。
あ、メッセージカードが見えてしまいました。
『俺の愛しのお姫様へ』と書いてあり、それを見たお嬢様の頬が染まりました。
うん、今日も甘すぎる。
「今日はこれを持っていってくれるかしら?」
アリスお嬢様が渡した物は、頂いた花で作ったオイルで、可愛い小瓶に入っています。
メッセージカードには『愛を込めて』と書いており、甘い空気にクラクラしそうです。
朝食を召し上がられて、午前中は学園の課題を。
アルグランデ様と昼食を共にされて、午後からは頂いたお花を使って様々な品を作り、夕方には刺繍や絵描きを嗜まれたり、夜はまたアルグランデ様と食事をしています。
アルグランデ様が会いに来れない日ですら、とても忙しくされいて驚きました。
アリスお嬢様は本当に多才です。
しばらく庭園で植物を眺めているときもありますが、その後何か閃いたかのように机にかじりつき、今度は実験を始めるのです。
「ミミリィ、良かったからこれ受け取ってくれないかしら?」
「これは?」
「保湿用のオイルを作ったの。アディにもらったお花が良い香りだったので」
えっ、頂いた花をこんなふうに加工して使用人の私に!?
しかもお嬢様が手作りした品を?
「あと、これも皆さんに配ってくれると嬉しいです。」
小さな入れ物とはいえ、かなりの数を用意してくれました。
確かにお花をたくさん頂いていましたが、婚約者から頂いた品を加工して配るのは大丈夫なのでしょうか?
「アリス。」
私が頭を白くしている間にアルグランデ様が来ていました。
良いのですか、アルグランデ様。
「アディ! できたのです。見てください。」
「うん、可愛い。」
「でしょう? 容器も可愛い物を雑貨屋で厳選したのです。」
たぶん、その “可愛い” はお嬢様のことかと。
選んで贈る先が使用人なことにも驚きですが。
「ハンナと試したのですが、出来もとても良くて」
自ら試されたのですか!?
それこそ使用人に頼めば良いのでは…?
「うん、良い香り。」
アルグランデ様がお嬢様の手をとってキスを贈りました。
貴公子の名に相応しい所作ですが、甘すぎます。
「アディ、恥ずかしいので」
「ならこれでどう?」
お嬢様を隠すように抱きしめました。
隠せば良いという話ではないような。
「ん、良いにおい」
お嬢様のこめかみにキスを贈られました。
あ、ハンナ様が手招きして退出を促して下さいました。
「おふたりはいつもあんなに甘いのですか?」
「そうよ。慣れるわ。」
ハンナ様、さすがです!!
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