お忍びと言えるのか?
今日はアリスと初のユアランス領デート!
帰省の約束をした際に、ユアランス領での観光地図を作成していないなら一緒に作りたいとアリスに言われたので、本日は無計画デートである。
なので、街の散策をする約束だ。
馬車で目的の店を回るのが貴族なのかもしれないが、俺たちはこれが丁度良い。
歩いているうちに欲しい物とか好みが知れたりするし、アリスは歩くのが苦ではないと言っていた。
手を繋いで街を歩き、雑貨屋、手芸店、花屋などを見て回る。
お店の人が俺に気付いて慌てるというハプニングもあったけど、俺としてはその店員に『今日はデートなんです』って口元に人差し指を立てて微笑むアリスが最高に可愛かった。
お昼を食べるのにオススメの店まで、アリスは街の人に尋ねていた。
「向こうに美味しいカフェが」
「あちらにすごく美味しい定食屋が」
「バカお前、お貴族様のデートなんだぞ! もっと洒落た…」
真摯に答えを探すあまり、ちょっとした口論になっていた。
「貴族向けでなくても良いのです。今日はお忍びデートなので。」
アリスが柔らかく微笑んでそう言えば、皆揃って「麗しい」「尊い」「ユアランス候爵家万歳」と言う。
まさかアリスの言動がユアランスの支持に繋がるなんて思いもしなかった。
ただ、お忍びの概念が俺の中で新しく構築されつつある。
街中の人に爆速で伝わり人が集まるほどだが、アリスと接した店員や街の人が今度は防衛の役割までしてくれる。
全面的にバレてても、お忍びと言えるのか?
いや、アリスのアイティヴェル領でのお忍びもこうだったな。
お忍びというか、公然の秘密のような。
気が付けば、俺たちが手を繋いで歩く様子を見た人たちから『尊い。ユアランス万歳』と聞こえるようになった。
「カフェと定食屋、どっちにします?」
「定食屋に抵抗とかは?」
「領地にもありますし、お兄様と行ったことがあるので。それに」
アリスが繋いでいた手を軽く引き、背伸びをして『街の人が親しみある定食屋って地図作成に役立ちそうですよね』と耳打ちするように言うのだ。
可愛い!!
デートで定食屋って有りなのか? と思ったけど、食べたあと少し歩いてからカフェでお茶しようということになった。
「いらっ……えぇ!?」
「ふたりなんだが」
「お邪魔しても大丈夫でしょうか?」
店員が大慌てである。
「絶世の美男美女が私に話しかけて下さっておられる??」
いや大混乱だった。
アリスが絶世の美女だなんて正直な女将だ。
好印象である。
「うちにお貴族様が食べるようなメニューは…」
「街の方にオススメされて定食を食べに来ました。」
「うちなんかで良ければ!!」
アリスの笑顔に女将らしき女性が陥落した。
俺たちユアランスではどうしても威圧感がでてしまうだろうが、アリスの笑顔はさすがである。
「アディは定食屋は初めてですか?」
「うん、色々教えて。」
アリスが基本のセットがあると教えてくれて、俺たちは何を食べるか悩んでいた。
「女将さん、オススメはあるかしら?」
「はい!! 今日は良い鶏肉が入ってま…………いや庶民的な物ですが」
話してる途中で自信喪失しなくても大丈夫だと思う。
「では私はそれにしようかしら。アディは、こっちのハンバーグとかどうですか?」
「あ、アリスの家で食べたやつ? ではそれをもらおう」
ハンバーグはアイティヴェルで生まれた料理らしく、アイティヴェル領で食べたそれは美味しかった。
周りの客も少しソワソワしている。
入っきた客まで、店を利用して大丈夫か確認している。
「あの、うちは粗茶しかなくて」
「まぁ! お茶のサービスがあるなんて素敵ね。」
感謝を伝えられた女将がときめいている。
アリスのこういう、人に平等に感謝を伝えらるところ、ほんと好きだなぁ。
少し待っていると、温かい食事が運ばれてきた。
アリスから聞いていた通り、メイン、パン、サラダ、スープが一斉に運ばれてきた。
美味しい。
聞くと、店主と女将は夫婦らしく、ふたりでアイティヴェル領に行ってハンバーグのレシピを学び修行してきたらしい。
「まぁ、そんなふうにレシピを求め広げてくれるなんて、祖母が喜びます。」
「祖母?」
「アディ。混んできたようなので、移動してから地図は書きましょう。」
「そうだな。」
外に出るととんでもなく列ができていた。
ここまで人気の店だったのか。
「ユアランス領は素敵なところですね。」
「嬉しいよ。有り難う。」
今度領民へ何かお礼をしようかな。
あ、ちょっと先になるけど、アレとかいいかも。
領民はこの時点で
アリスがアイティヴェルだと気付いていません。
読んで下さり有難うございます!