ユアランス候爵 ②
贈り物の報告も受けた。
到着してすぐに贈り物リストを渡されて、まさかのアリス宛まであることに驚いた。
そもそも、アルを呼び出した理由はこの話を聞くためだった。
「アリスは贈り物をどう思うだろうか。」
「そんな気の利いた贈り物をできる人が居るとは思いませんね。ただの宝石なんかにアリスは靡かないと思います。面白い物があって、やっと感心を向けてもらえる程度かと。」
アリスは賢いから、ユアランス候爵家の価値観を重視して対応してくれると思う。
実際に贈り物の検品一覧では、アリス宛は宝石ばかりだった。
無難と思ったのだろうが、息子の婚約者は並の令嬢ではないからな。
当然アルが勝手に消滅されようとしたことも聞いている。
その理性があるのに、燃やそうとしたってことは、下心を持ってアリスに取り入ろうとしたことが単純に気に入らなかったのだろうな。
「対処方法は検討しておく。ノアルト、お前はアレの対応を決めなさい。」
ノアルトへの釣り書は、執務室の机に乗り切らず、テーブルに山にして積んでいる状態だ。
「ノアが呼ばれたのはコレかぁ。」
「山積みですね。不要ですから処分をお願いします。」
ノアルトは相変わらずか。
全く興味がないのが態度に表れていて、相手を確かめることもしない。
「一応聞くが、異性への関心はあるんだよな?」
「誰かに男色の気でも疑われましたか? けど、その心配は無用です。ただ、相手は自分で選ぶってだけのことです。」
確かにうちは政略的な婚姻は必要ない。
それに、ノアルトは先代が後継ぎに推薦したあの瞬間から、徹底して能力を隠している。
剣術は絶対に本気を出さない。
魔法の訓練は拒否。
勉学は平均的な点数に合わせる。
ノアルトが徹底しているので、後継者順位の試験が内密に行われたくらいだ。
剣術で言うなら皇城の騎士になれる実力があり、魔法は魔力操作が得意で繊細な技術があり、筆記はほぼ満点。
兄の補佐官になりたいから、継承権二位は確実に欲しかったと話していた顔は、“不敵”の言葉がよく似合う笑い方だった。
「前にも話しましたが、婚約者の存在は今時点で不要です。別に生涯ひとりでも構いませんが、必要であれば兄上の役に立つ人物を迎え入れます。」
婚約者の身分が高いと、それだけで後継者として持ち上げられる材料になる。
逆に身分が低いと弱点にもなる。
これがノアルトが描く、補佐官になるための最短の道のりなのだろう。
「ノアルト。もし、聖女様がお前を求めたらどうする? 高位貴族の中でお前は年が近い方だし婚約者も居ない。今は殿下とアグニエイト、イグニドアの婚約者の席が空いているが、今後は分からないだろう? 彼等はお前より年上だ。」
「心配いりません。あの女は、姉君の治癒を拒み、更には敬愛する兄上をも傷つけた非道な方です。絶対に娶るなんてしませんし、それを兄上の友人方に押し付けるくらいなら、全力で叩き潰します。」
ノアルトは平然と言ってのけた。
怒っているとも言えないような、穏やかで冷たい表情のまま。
息子なのに、本気で怖い。
普段やる気無し人間なのに、どうしてアルグランデのことだけこうなるのか。
「ノア、それには俺も同意だ。ウィルとレオ、リンはいつだって俺の想いを応援してくれる。そんな友人に不本意な婚姻をさせるなんて断固反対だ。それにお前にだって、聖女を娶るだなんて政治的苦渋は絶対に選択させたくない。」
「兄上、格好良いです。」
「それに、アリスだって絶対反対だろう。アリスが望むなら、アイティヴェル辺境伯家の総力を持って支援してくれそうだ。」
アイティヴェル辺境伯家まで味方してくれれば、ノアルトの不幸は避けられ、ユアランス侯爵家の名誉までも守られそうだ。
あとは皇家とアグニエイト侯爵家、イグニドア候爵家と対立しないように気を付ければ良い、だろうか‥‥‥
「っていうか、もう何処かの家に聖女を娶らせちゃいません? そうすれば、割りと平和な気がするのですが。」
ノアルト、正直すぎる。
美徳でおさまる範囲を超えてる気がする。
「難しいだろう。異性との噂が絶えないことも問題だが、アイティヴェルを敵に回してまで娶りたい貴族が居るとは思えない。だからと言って、最高位治癒魔法の唯一の使い手を国外に出すことはもっと難しい。」
複雑なのは、うちの長男がそのアイティヴェルと婚約してるのに、どうしてその長男に聖女が言い寄ってくるのか。
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