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後継者は




 今日はアリスと温室でお茶している。


 いつかアリスのユアランス領訪問が実現することを願って、母上が作った温室だ。

 感謝している。


 両親が戻って来たら、年末の慰労パーティーでアリスを婚約者として一族に紹介する。

 大規模なパーティーになるのだから、それなりに準備は必要だし、他にも色々デートの予定などを立てたい。



「作ってきました!」


 見せてくれたのは、ユアランス領でのやりたいことリスト。

 当然俺も、アイティヴェル領に行ったとき同様に作ってきている。


 アリスの書いてきてくれたことは、先代侯爵夫妻への挨拶、領地の観光、俺が好きな場所へ行くこと、弟たちとの交流、ユアランスについて学びたいなど。


「この辺の積雪状況が分からないので、できる範囲で良いのですが」


「本格的に雪が降るとしてまだ先だし、長くは降らないから大丈夫だと思うよ。降ったとしても日程を調整すれば良い。全力を尽くすけど、できなかったら次の楽しみとして残そう。」


「有り難うございます!」


 あぁ、可愛い。

 アリスがとてもニコニコしている。


「あ、それと、年末にパーティーがあると聞いたので、できれば招待客の知識がほしいの方のですが可能でしょうか? お名前とか、侯爵様とのご関係とか。」


「ノアに頼もう。その間に俺が仕事済ませちゃえば効率良さそうだし、ついでに双子にも学ばせればいいだろう。」


「ノアのお時間は大丈夫ですか?」


「たぶん喜ぶと思うよ。普段から双子の教育もしてるらしいから、たいして手間にも思わないと思う。」


 というか、絶対喜ぶ。

 ノアは子どもの頃から、俺が勉強でも訓練でも誘えば何でも喜んでいたし、アリスを姉君と呼んでいるくらいだ。


 それから、衣装のことを含めて段取りを色々相談した。

 今回は招待状に俺が一筆入れて招集をかけているから、初めての事態に招待客は驚いてるいるだろうな。


「アリスは、ユアランス領で行ってみたい場所とかある?」


「有名な自然公園があると聞きました! 行ってもいいですか?」


「もちろん。植物採取がしたいなら裏にちょっとした山があるけど、この時期はさすがに寒いし、公園の草花の採取許可を父上に申請しとくよ。景観さえ守れば問題ないと思う。」


「嬉しいです! ご無理のない範囲でお願いします!」


 アリスが嬉しそうで嬉しい。


 ユアランス侯爵領といえば、木々の生い茂る自然豊かで広大な土地だろう。


 それでいて、領都はそれなりに栄えている。

 大きな劇場もあるし、皇都に負けない有名な店だってある。


 ただ、魔物の出没区域を避けて街があるから、討伐でしか使わない土地がかなりある。

 アイティヴェル領の魔物活用法があれば、かなりのお金が動くし、こういった問題の解決にも繋がるのかもしれないな。


「先代侯爵様へのご挨拶はどうしましょう?」


 アリスは俺の祖父母に会うのを楽しみにしていた。


 なんであの両親から父が生まれたのか不思議なくらい厳しい人だし、子どもの頃の俺は皇都に居たから可愛がってもらった覚えもない。


「執事長に言ってあるから時間が取れたら連絡来ると思う。」


「あの、もしかしてあまり良好な関係ではないとか?」


 俺の顔色が曇ったのか、アリスはすぐに気付いたようだ。

 アイティヴェル家は家族仲が良いと有名だし、本当にその通りだから、うちの事情はアリスの負担になるのではと話せないで今日まで過ごしてしまった。


「別に不仲とかではないと思うけど、親しくもないかな。厳しい人だから軟弱な孫が後継者と嫌だったのかも。」


「‥‥‥‥‥‥‥具体的に、何か言われましたか?」


「後継者はノアルトが良い、と。」


 体力が人並みになって、本邸に初めて来たときにそう言われた覚えがある。


「それは、ノアが怒ったのでは?」


「祖父母に『次期侯爵は兄上以外にありえません』と、その場で反論していたな。」


 そう言い放ったノアは、俺の前に立っていたから顔が見えなかったけど、祖母の顔が引き攣ったのをよく覚えている。

 ノアは一族の中では二番目に魔力量が多いらしく、感情に負けて魔力が溢れていた。

 そんなノアはちょっと怖かったのかもしれない。


 振り返ったときには既に笑顔に戻っていて、『兄上、訓練に遅れます。参りましょう。』と爽やかだった。



 この話をした結果、アリスの表情が曇っている。

 話さなきゃ良かったかと思ったけど、アリスは「話してくれて有り難うございます」と言う。


「もし先代侯爵夫妻であっても、貴方を害するなら戦います。けど、まだお会いしてないので、全ては会ってから決めようと思います。」


「アリスが戦うくらいならあの人たちを追い出すけど?」


「ダメです。これは嫁入りする全ての女性が、自分で乗り越える問題なのです。」


 あれ?

 婚姻相手の両親と問題が起きやすい、っていうのが通説じゃなかったっけ?

 両親はアリス大歓迎だから問題が起こる方が難しいけど。


「分かった。けど、何があってもアリスの味方だから。」


「有り難うございます! でもアディ、過剰防衛はダメですからね。」


 あの人たちは先代侯爵夫妻であり、現在の本邸の管理者。

 当然ながら先代侯爵は魔力は多いし、攻撃魔法が得意らしくて、【護】のユアランスに相応しい人物なのだろう。


 けど、俺はアリスを害するなら、それなりの対応をするつもりだ。


「アディ。私は、アイティヴェル辺境伯の娘です。忘れてはダメですからね。」


 そう言ったアリスは笑顔だった。

 好戦的ではなく柔らかい笑みが、平和に尽力してきた英雄一族を血を感じた。


ノアルトは喜びますが、

それは兄に頼られたことに喜びます。

アリスは正しく理解していますが、

アディ本人は気付いていません。

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