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 ミハイルがアリスの額にキスをした。

 兄妹なのだから変だとは思わないけど、うちには男兄弟しかいなくて普通が分からない。


「あれは我が家の遠出する家族に向けた、おまじないのようなものです。人前ではちょっと恥ずかしいですね。」


 家族にってことは、婚姻したらしても良い?

 婚姻したらアリスはアイティヴェルの姓ではなくなるけど、アイティヴェルの風習を真似ても良いかな?

 いや、婚姻するのは決まってるのだから、婚約期間から始めてもいいのでは。


「それにしても、本当に温かい馬車ですね。」


 思わずじっと見つめてしまったので、照れたのかアリスはあからさまに話題を変えた。


 アリスは俺の作ったクッションを抱きかかえながら、その温かさをしっかり噛み締めているようだ。

 椅子のクッション部分にも温熱装置としての魔道具を付けたし、椅子分の段差部分から温風がでるから寒いってことはないはず。


 これ、結構悩んだんだよね。

 アリスは北方出身だから寒いの平気なのかもって考えたりしたけど、冷えは女性に良くないって聞くから熱くない程度の快適を目指し、温風だって優しい風にこだわり抜いた。


 もし熱ければ、クッションを何個か降ろすだけで調整できる。


「本とか、あとはカードゲームや本なんかも用意してるし、疲れたら寝てくれて構わない。温かいお茶も用意してるし、お菓子もあるから。」


「帝国一豪華な馬車な気がしてきました。」


 カードとか本を用意しただけでそこまで褒めてくれるなんて、アリスは本当に優しいな。


「この魔道具って、その、アイティヴェル領でも使えるような物なのでしょうか?」


「魔道具にする回路作りがちょっと難しいけど、できると思うよ。設計図をミハイルに送っとこうか?」


「有り難うございます!」


 アリスの表情がとても明るくなった。

 北方地域の冬の様子が明確には分からなけど、それだけ寒くて辛いのかもしれない。


「アイティヴェル領では冬までに備蓄を済ませ、吹雪の日は家で過ごすしかなくなるのです。こういうクッションだけでもあれば、幼い子どもや病のある方、妊婦の方や産まれてくる子どもなど、たくさんの方が命を落とさなくて済むかもしれません。」


 吹雪の中、何かあっても医者を呼べないのかもしれない。

 それに寒さというのは、それだけで体を弱らせる。

 加えて、冬を丸々超えられるだけの備蓄を用意し、更に薪まで用意しているのであればそれはかなりの負担のはずだ。


「祖父母が薪の安全な使い方を伝えてくれて、それからは冬の室内での死亡者数も減ったのですが、できれば安全な暖房器具が欲しくて始めたのが魔物素材の活用なのです。祖父母が海外旅行に行くのも、もしかしら魔道具を探しているのではと勝手に思っていて」


 俺は、すごくショックだった。


 アイティヴェル辺境伯家がずっと問題としているほど、北方の雪が厳しいことを知らなかった。

 アリスだって何年も気にかけてきたのに、俺はこの魔道具を十日もかけないで完成せていた。


「アリス……… 俺、力になれることがあったのに、無知で、知ろうとする努力が足りなくて、本当にごめん。」


 アイティヴェル領の話に興味がなかったとかじゃない。

 そんなわけはない。

 それでも、アリスのためにと前のめりになっている範囲があまりにも狭かったのだ。


 北の地では雪が凄いと言われても、殆ど雪が振らない地域で育った俺にはピンとこなかったのかもしれない。

 ならば、きちんと体験して学ぶべきだった。


「えっ、謝ることではないですし、後悔もしないで下さい。アディが夏に領地で温暖の問題を解決するために、悩んでくれたのを知っています。」


 アリスは、柔らかく、自然な笑みで話してくれている。


「この設計図を頂けても、領内の技量で活かせるかまでは分かりませんが、それでも私は嬉しいのです。」


「活かせなかったらそれでも構わない。活かせるように俺の方でも努めるし、もっと良い物が希望なら励むつもりだ。」


「徹夜と食事抜きはダメですからね。」


 何故知っているのだろう。

 アリスに会いに行くときには、外に出る前に顔色を確認していたんだけどな。


「それから、私にもユアランス領の力になれることが何かあれば、何でもさせて下さいね。私も、ユアランスになるのですから。」


「ぐはッ…………は、はい。」


 恋した女の子に想いを伝えられて、想いを返してもらえる、将来の約束もある。


 幸せだ。


 

 

読んで下さり有り難うございます!

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