皇太子殿下 ウィリアム
お、意外だ。
アルは悩んでいたようだが、結局宝探しに参加するのか。
傍に居るレオも、手を繋いで会場を出て行くふたりを見て、とても満足そうだ。
「それで? レオは誰とデートするのかな?」
「…………ふっ、俺が?」
レオの笑い方は堂々としていて、そんな気がサラサラないことを隠していないように見える。
私はこのゲームの答えの検討がついている。
会場に入る前に飾られていた絵がヒントなのだろう。
レオが炎魔法を使う絵。
“初めての魔法九歳”と書かれていたが、レオは出逢ったとき既に魔法を使えていた。
僅か三歳で魔法が使えたと聞いたことがある。
家族の絵に年齢が書かれていたが、確か三男の年齢は間違い。
そんな感じで見ていくと、間違っていた文字を会場に向かう順で並べると、“三”、“A”、“九” になる。
範囲はこの別邸であり、庭を含むとは言わなかったから、おそらくこの文字は部屋を示すもの。
ならば、三階の九つ目の部屋だろう。
それにしても、どの方角から九つ数えるかを示す頭文字が “A” だなんて洒落たことをしたと思う。
アイティヴェルの “A“ 、即ちアイティヴェル辺境伯領のある “北” ってことだ。
この部屋に行けば、おそらくヒントの紙か宝箱があるのだろう。
謎解きが難しくても、自力で探し尽くせば見つけられるというのが悩ましいところだな。
「ウィル。暇だからテラスで休憩でもどうだ?」
申し出を受けることにして、テラスに準備された席につく。
レオは実直で、嘘はつかない性格だ。
それ故に、この賞品が嘘ということはない。
「レオはさ、何で侯爵夫人に逆らってまで婚約を拒否するんだ?」
アグニエイト侯爵が何も言ってこないことを考えると、侯爵を説得できるだけの理由で、夫人には伝えられない何か。
「またそれか。そんなに婚約者が大事か?」
「国中の適齢期の女性が居なくなってもか?」
「別に国外からだって迎え入れられるだろう。でも、そうだな‥‥」
レオが作った笑みをやめたのが分かった。
やっと真面目に話してくれるようだ。
「ウィルは、本当に俺たちの代で教会に勝てると思うのか?」
まさか‥‥‥‥‥‥‥
いや、そんなわけない。
自己犠牲が嫌いなこの男がそんな思考をするわけがない。
絶対に。
「高位貴族の婚約者の枠は最低ひとつは開けて置かなければならない。保険のためにな。」
「ふざけるな。お前はっ、私を信じていないのか。」
レオは答えない。
教会討伐が叶わなかったとき、調和のために聖女を娶る枠を空けておくということだ。
「私がお前に、そんなことをさせると思っているのか?」
「俺だってそうだよ。お前にそんなことはさせない。」
私とアグニエイト次期侯爵の婚約者枠が空いていたら、皇帝は聖女に皇妃としての身分を持たせるのを嫌悪し、侯爵家に嫁がせるだろう。
「お前は、私を絶望させる天才だな。」
本当に、心からそう思う。
この権力争いに誰も巻き込むつもりはなかったから、婚約者は決めていない。
側近だって傍に居れば強者だが、それ故に手放す理由が常に存在する人物を選んだつもりだ。
なのに、私の一言でレオの人生を縛ってしまった。
側近たちに、膝をつかせて忠誠を皇帝に宣言させるなんて、私は望んではいなかったのに。
元来の私は、我が強い人間だ。
私の望む国にしたいし、そのためなら親友を国に留め続けるつもりでいる。
弟妹に譲るつもりはないし、そのためなら本気を出し続けるつもりだ。
けど、本当にこれでいいのか?
友の人生に犠牲にして、望みを叶えることに意味はあるのか?
今の自分は、皇太子殿下の身分に相応しい笑みを浮かべられているのだろうか。
「ウィル。お前は友人に優しい。だからこそ、お前の【剣】になったんだ。戦わないなんて弱気なことしたら、ぶっ飛ばすからな。」
「武道派のレオに殴られたら、さすがにまずい。」
レオは今日で十八歳、もうあまり時間がない。
日和見してるつもりはないが、それでも急ぐ必要はある。
「俺はこの国の【剣】アグニエイト侯爵家長男レオナルド。この国の敵を殲滅する者。そんな俺のことは、お前が護ってくれるのだろう?」
そうきたか。
レオってほんとに押しが強い。
しかも絶対に譲らない。
誰にでも平等に優しくて、誰にでも平等に紳士。
「お前はその気になれば敵全てを、それこそ私さえも、焼き殺せる炎なのに、私にその選択を預けるなんて、ほんとうに残酷な男だよ。」
レオが驚いた顔をした。
まぁ、このレクレーションの結果さえ結末を用意している周到なお前に、その顔にさせることができただけで今は許してやるか。
「そうだな。私はお前に見限られないように、国の悪を全力で叩き潰すよう今まで以上に努めるよ。」
「お供致します。」
こうして私を “主君” にしてくれているが、本当の主導権はレオにあるような気がする。
“俺を御せる主でいてくれよ”
そう言われているようなものだ。
優しくても、紳士的でも、私を暴君にしない火力最大の防御装置なのかもしれない。
後日、宝箱を勝ち取ったアルがレオとデートすることになり、ふたりで舞台観劇に行ったことが社交界の話題をさらった。
宝飾品の方もアルが見つけたが、“友愛の証” としてユアランス本邸に保管するらしい。
後で聞いた話だけど、アリス嬢は宝石には興味がなく、舞台は先日ユアランス侯爵夫人と行ったものだったから一緒に行かなかったらしい。
というのは建前で、話題性をあげるためにわざとレオとアルだけにしたのだろうな。
世の女性もこれでは遺恨を残せない。
アルとエドの参加に賭けたレオは、候爵夫人に勝てたようだ。
ただ一応、『私の友を利用することは許さないからね?』とは釘は刺しといた。
レオの誕生日編(?)これで終了です。
ウィルとレオに婚約者が居ない理由がこれです。
ゲーム部分とかどう書くか
かなり悩んでこうなりました。
次回ユアランス!