色遊び
他にも妹が居るのに、第三皇女殿下を連れてきたのは、レオと年齢差があることで婚約者候補でないと思わせるためだろうか。
「良い子だね。」
ウィルが微笑んで頭を撫でると、皇女様は本当に嬉しそうにニコニコする。
そんなウィルに頬を染めてるご令嬢は多いが、皇女様と年が近い令息令嬢を連れて来なかったことを悔しがる貴族も多そうだ。
「クレアさま!」
走ってきたのは、レオと同じ真紅の髪の男の子。
少年も皇女様も、どちらもニコニコしている。
察した。
皇女殿下は、おそらくあの少年を慕っているのだろう。
そしてその少年はレオの弟。
初対面だけど、なんていうかレオと色味が似ている。
「挨拶!」
侯爵でも夫人でもなく、一喝したのはレオだ。
少年らしい自然な笑顔が消え、滑らかに紳士の笑みへと変わったことから、普段もレオの教育が厳しいのだろうと分かる。
皇女様まで背筋が伸びているけど。
「レイウェス・アグニエイト、皇太子殿下並びに皇女殿下にご挨拶申し上げます。本日は兄上のために来て下さり、誠に有り難うございます。」
「久しいね。レイウェス、今日は妹のエスコートをお願いしても良いかな?」
「はい! お任せください!」
ウィルはエスコートしてきた妹をあっという間に手放した。
まさか妹の恋路を応援するために連れてきたの?
そんなわけないな。
だってウィルだ。
妹を気にかける兄は少数派なのかも。
アリスがエトール嬢と令嬢たちの所へ挨拶に行ってしまったので、俺はレオの所に来ていた。
「レオ。今日、庭歩ける?」
「ん? あぁ、アイティヴェル嬢と歩くのか。でも、女性には寒くないか?」
寒いかな?
でも確かに、俺はシャツにジャケット着てるけど、アリスは透けてる布の袖があっただけ。
露出が少なくても薄着ではある。
「アル。他家の庭園で、人様の誕生日に、婚約者とデートするつもりなのか? それは」
「うわっ、エドが赤い。」
「いや言うほど赤くもない気がしてきたかも? お前たちのせいで、感覚が麻痺してきた。」
エドはシャツの刺繍。
リンには会ってないから分からない。
一番話題を攫うのは、なんと言ってもウィルだろう。
紺のジャケットの襟には派手な赤色の柄が入っていて、更に赤い宝石に金色の十字が揺れる派手なピアスは本当に目立つ。
マントを止めてるのは、受付でもらった赤い花。
「最近は誰かさんたちのお陰で色遊びが流行ってるよね。お陰でクレアも堂々と赤いドレスだ。」
色遊びって何だ?
流行ってるならアリスは知っているのかな?
「アル、分かってないみたいだけど、流行らせたのはお前たちだからね。」
俺とアリスがお揃いの色を纏って衣装を作っているので、皇都ではそれが流行したそうだ。
「まぁパートナーの色が似合うとは限らないし、ご令嬢たちはドレス選びが楽しくなるだろうな。妹もそう言っていたし。」
レオの妹と言えば、社交界で有名なくらいオシャレだと前に聞いたことがある。
そういう利点があったのか。
俺はアリスにはこの色も似合うかも、とかそういう目線しかなかった。
確かにそういうのは楽しい。
「そういえば、こないだ学友のサムに婚約者ができたんだ。本当に良かったよ。」
場所が場所だけにレオは言葉を選んだが、色差別が減ったことに安心したようだ。
レオがたまに一緒に居るところを見たことがある伯爵令息は、焦茶色の髪にグレーの瞳。
以前、その色で揃えることを嫌がられ、婚約破棄までされたというありえない話をレオから聞いていた。
婚姻の披露宴ではお互いの色を身に着けるのがマナーなので、一生に一度の式に夢みるご令嬢は華やかな色を好ましく思うそうだ。
華やかな色代表みたいなレオに、その話をした伯爵令息すごいなと思った記憶がある。
この国のピアスは、親が子の健康を祈願してつけさせる御守りのようなものであり、十歳で外すことができて、成婚したら蜜月期は相手の色を身に着けるのが伝統だ。
あくまで伝統だが、貴族では必須の事柄で、貴族でなくても成婚のときにピアスを贈り合うのが習わしになっている。
衣装にパートナーの色を取り入れるっていうのは、ピアスの伝統から派生したものなのだろうか。
ちなみに、パートナーの色を纏うことに意味を持たせる風習がある国だけに、ピアスに他人の色を意識して入れるってことは特別な意味を持つ。
よって、今回のウィルの行動は、話題になること間違いなし。
正直、俺だって驚いた。
ちょっと引いたのは、絶対内緒だ。
次のリンの誕生日でも同じことしそう。
レオの誕生日2話目でした。
ウィルとレオの関係性が
分かる話がまだ続きます。
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