レオの誕生日
レオの誕生日を祝う夜会に来ている。
皇太子殿下の側近で侯爵家嫡男のレオは、卒業してしまえば一気に近寄り難い存在になる。
学園生同士だから普通に話せているだけで、親しくなったとか勘違いしてはいけない。
だからこそ、多少の気安さが許されるこの夜会に、参加したい貴族は多かったはずだ。
更に言えば、アグニエイト侯爵夫人はレオの婚約者を探したいと思っているので、たくさんの令嬢も招待されているだろう。
結果、かなり大規模な夜会となった。
侯爵夫人は可哀想だけど、レオは現時点で婚約者を決めることはないと思う。
今日の衣装は、黒をベースに赤が差し色。
当然ふたりで揃えている。
レオの誕生日だからっていうのもあるけど、赤いドレスのご令嬢は多そうだからレオに配慮した部分もある。
うちの娘が貴方様を想って赤色を選んだ、とか言われても『友人とその婚約者もそう言ってました』と言えば解決だ。
恋情を示すはずが、途端に友愛や敬愛として扱われる。
実はこれ、アリスの考えだ。
レオが婚約者を作りたくないみたいだから協力したいってアリスに相談したら、衣装で援護しようということになった。
それを知ったエトール嬢が協力を申し出てくれ、そうなればエドに拒否する選択があるわけもなく、ウィルとリンは面白いそうだからと参加を決めた。
だってレオは、一度決めたことは絶対に曲げない。
それに多分、話してくれはしないけど、婚約者が居ない主君への配慮ってだけではない気がする。
何か理由があるんだろうなって思うんだよね。
「ユアランス様、アイティヴェル嬢ですね? こちらをどうぞ。」
受付で赤色の装飾品で渡された。
事前に招待状で知らされていたので、俺は胸元にブローチとして装着する。
アリスはハンナがスッと現れて髪飾りにしていた。
会場に入る前に渡されるは、こうして使用人が助けに入れるからだろう。
「これ、硝子か? 花の形に加工するなんて凄いな。」
そんなふうに話してる声が聴こえる。
けど、目の前のアリスの髪飾りを見る限り、花びらに加工されてるのは宝石のような気がする。
俺の花も同じだ。
「硝子と宝石があるのでしょうか?」
「そうみたいだね。彼等のは硝子に見えるし。」
会場に入ると既にたくさんの人がいて………いや、ほんと多すぎる気もする。
まずはレオに挨拶だ。
すごい並んでいるので俺とアリスは大人しく並ぶ。
「ユ、ユアランス様!? 良かったらお先に」
こういう人も結構居たけど、全部断った。
アグニエイトは特に肉料理が美味しいとか、庭園も楽しいから見せてもらおうかとか、アリスと楽しく話して過ごしていた。
そして順番が来た。
「誕生日おめでとうございます。婚約者と共にご挨拶させて頂きます。」
「ご招待頂き有り難うございます。レオナルド様、お誕生日おめでとうございます。」
「有り難う。アル、アイティヴェル嬢、来てくれて嬉しいよ。」
レオはにこやかだ。
侯爵と夫人は俺たちが赤色を使った衣装を着ていることに、少し驚いたような反応だった。
たぶんエドかリンあたりが挨拶を先に済ませていて、意図に気付いたのかもしれない。
「アグニエイト侯爵、夫人。紹介させて下さい。彼女はアイティヴェル辺境伯家のアリス。私の婚約者です。」
侯爵と夫人は形式的に、かつ丁寧に挨拶をしてくれた。
けど夫人、アリスをジロジロ見るのやめて下さい。
レオだって然るべきときが来たら、きっと素敵な方と婚約するはずです。
「皇太子殿下、並びに第三皇女殿下ご入場です!」
ウィルは入場して、真っ直ぐに此処へ歩いてくる。
列は一度解散して、道を開けた。
俺とアリスは端に寄り、アグニエイト家は椅子から降りて頭を下げる。
ウィルがすぐに声をかけてくれたので、俺たちは礼をといた。
「レオ、誕生日おめでとう。それから、招待してくれて感謝する。側近であり友人の誕生日を祝えて嬉しいよ。」
「ご足労感謝致します。それから、祝いの言葉、有り難く頂戴します。」
ここまでが挨拶。
「それにしても、ウィルまで……」
レオの視線が衣装のことだと、雄弁に語っている。
夫人の目の前でのやりとりなので、レオが頼んだことでないと伝わっただろうし、皇太子殿下がすることに文句を言えるわけもない。
「私からの友愛が気に食わないのか?」
「そんなわけないだろう。けど、皆揃ってこんなとこと…… 知らなかったから驚いたよ。」
驚いてたならもう少し表情にだしてほしいくらいだ。
全然伝わってこない。
もっと驚いてほしかった。
「ふぅん? もしかして、他にも同じ事をしてる人がいるのか? 奇遇だな。」
「確かに奇遇だ。アリスに赤色というのも似合うと思ったし、それならせっかくだから常に赤いレオの誕生日に、と思ったんだが。」
「俺のこと常に赤い人って認識だったのか。」
許せレオ。
わざと揃えてきたなんて言ったら、アグニエイト侯爵夫人が可哀想だから名言を避けるとアリスと約束している。
それと、悪ノリしてるウィルは俺のせいではない。
「さてクレア、挨拶しようか。」
「アグニエイト侯爵家の皆様、招待を有り難う。それから皆様、ご機嫌よう。クレア=ディリアス・スペーリオでございます。」
ウィルとは違って、大人しくもの静かな印象な皇女様だ。
というか、皇女様までドレス赤い。
皇女という身分なのに、ウィルが声をかけるまで黙っていたなんて、皇族の力関係が垣間見えた気がした。
レオの誕生会編(?)
長くはないですが
何話か続きます。