嫁ぐに相応しい
冬期休暇が近づいている。
そして俺は多いに悩んでいる。
アリスの誕生日プレゼントが決まらない。
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俺の誕生日には、アリスがオルゴールをくれた。
土台や木枠部分の装飾部分をアリスが絵を描くところから手作りしてくれたそうだ。
そして、木枠以外の殆どの部分が硝子張りの箱の中では、白い花の上を粉雪が舞っている。
先代辺境伯夫人であるアリスのお祖母様は、スノードームという名前の魔道具を開発していて、それをアリスも子どもの頃にプレゼントでもらったことがあるらしい。
スノードームは、硝子の中に雪景色を閉じ込めたようなものらしいが、販売はしなかったらしく俺も初めて見た。
このオルゴールは、そのスノードームを参考にしたらしい。
中の魔石に魔力を補給すればずっと使えるらしく、魔力の多い俺の所に来た以上雪は振り続ける。
そのオルゴールは蓋を開けなければ音は鳴らないけど、蓋を閉めていても魔石の魔力が切れなければずっと雪景色を眺めてられる。
『何の花でしょうね?』
帰宅して執務室にオルゴールを置いたら、それを見たビリーに尋ねられた。
『スノーフレークじゃないかしら?』
そしてそれを見に来た母が答える。
夕食の席で何をもらったのか聞かれたから、オルゴールと答えただけなのに行動が早い。
アリスは向日葵が好きだと言っていたけど、スノーフレークという花を選んだ理由は何だろう?
雪景色の中に向日葵は違和感あるからなのか?
『よく分かりますね?』
オルゴールは林檎ひとつ半程度の大きさしかないのに、その中の小さな花畑を見て言い当てた。
『アリスちゃんって誕生日、二の月よね? もしかして、誕生花じゃないかしら?』
母上はすぐにメイドに頼んで、書庫から誕生花一覧の本を持ってこさせた。
本当にアリスの誕生花だった。
『氷属性魔法はユアランスを象徴する魔法よね。雪に少し黄金色が混ざってるのはアルを示していて、更にアリスちゃんの誕生花。あぁ、なんてロマンチックなのかしら。』
母上がうっとりしてるけど、今はそれどころじゃない。
嬉しくて、なんかもう発狂しそう。
『兄上、魔力が増えています。さっそく魔力を補給しましょう。』
いつ来たんだノア。
勝手に入ってきたの?
『これは魔道具としては、魔力の必要量がかなり膨大で販売に至らなかったのかもしれませんが、兄上にはとても相性が良いですね。』
『そうね。それにしても、こんなに魔力が入る魔石を用意できたなんて、さすが “アイティヴェル” ね。』
魔石とは、魔物の体内から稀に出てくる品であり、魔道具制作には欠かせないので小さい物でも高額で取引される。
貴族の邸で空調や照明などに使われたり、娯楽にも用いられるため、貴族の生活に必須な品でもある。
アイティヴェルは魔物の森近くの土地を治めているため、魔石の輸出がとても多い。
アリスが言うには、剣術や武術を得意とする家系で、魔石があっても魔法が得意な者が少ないから殆ど売りに出されるらしい。
魔石の販売数は、それ以上に魔物を討伐しているという証明にもなる。
一般的に、魔石に入る魔力量は魔物の強さと比例する。
これだけ魔力が入るのだから、かなりの大物か、魔法を使う特殊個体だったのだろうな。
『これだけで邸が建つわね。むしろ城かしら?』
『さすが姉君です。兄上に嫁ぐに相応しいスケールですね。』
スケール??
こんな高価な物を貰って良かったのだろうか。
アイティヴェル領は、先代辺境伯夫人の経済効果で裕福な方だが、それでも魔物被害の補填や豪雪期の対策など出費も大きいはずだ。
その資源になるはずの物を貰って良かったのか?
まぁそれは置いとくとして、アリスがたくさん悩んで用意してくれたというプレゼントが、とにかく嬉しかった。