皇太子殿下ウィリアム②
2本連続での投稿になります。
読み飛ばし注意です。
この話は五章の3話目です。
自分の代わりなんて弟妹たちができる。
陛下は息子の自分に価値を感じていない。
どうせ政略結婚をする。
子どもの頃は、第一皇子なんて身分は、できることよりできないことの方が多いと思っていた。
思い返してみれば、我儘ひとつ言わない、いつも笑顔を顔面に貼り付けた、心底不気味な子どもだったと思う。
投げやりのようにも思えるその心が、日々の態度に表れていたのだろう。
それが常々レオを苛立たせていたのかもしれない。
そしてついにある日、レオが怒鳴ってきた。
『ふざけるな! お前が望みを叶えようとすれば、その価値観も、国だって変わるのに。お前はお前自身の人生なのに、傍観者でいるつもりなか!』
初めて聞く、響き渡る怒鳴り声に正直驚いた。
そして延々と続く説教に、正直霹靂とした。
何を言われても変わらないのに、レオはそれでもこんな自分を叱り続ける。
『お前が自分を大切にできないなら、俺が大切にしてやる! だからお前は俺の気持ちを大切にしろ!』
私にあまり響いていないのが伝わったのか、レオはとうとうこのような暴論を吐いたわけだ。
『それって私に何か利益があるの?』
嫌味のように聞こえただろう。
それでも、価値観を押し付けられるより良いと思った。
何を言われたって自分は陛下の駒で、この国のために命を捧げる宿命で、自分の思うようにできることなどひとつもない。
『お前が最も望むことを俺が叶えるよ。俺のアグニエイトとして、血も能力も、全てを “ウィリアム=ディリアス・スペーリオ” お前のために使おう。』
ゾッとした。
さっきのは明らかに失言だったと気付いた。
レオは情が深いけど、こんなことまで言わせてしまった自分に、子どもながらに私は自分に酷く失望した。
レオは優しくて、嘘をついたりしない真っ直ぐな性格だ。
友人であるはずの彼に、こんなことを言わせたのは自分だ。
四大侯爵令息に私を含めた五人の中で、一番年上のレオは、いつだって私たちに平等で優しい。
そんな彼に、私は酷いことを言い、こんなことを残酷なことを言わせてしまった。
帝国の【剣】であるアグニエイトのレオは、帝国に忠誠を捧げる立場であって、皇族である自分を支える立場である必要はないのに、彼の未来を狭めたのは私だ。
私は初めて、自分を酷い奴なのだと思った。
『生涯、お前の忠臣でいてやる。』
レオは怒りに任せてこんなことを言っているのかと思ったけど、いつまでたっても発言を覆すことはなかった。
その後私は、自分のしたいことを見つけないのはレオに失礼かと思い、様々なことに取り組んでみた。
勉学、剣術、魔法を今まで以上に本気で取り組んでみたり、他にも価値観の柔軟性が欲しくてお忍びで街に出たりもした。
やろうと思えば呆気なく城を抜け出すことができ、レオの言う『望みもせず勝手に諦めていた』のは自分のせいなのだと思った。
お忍びにはレオとエドが無理矢理ついてきて、それが尚更護衛の肝を冷やしていたな。
そして、私は四人を連れて貧民街に行ってみた。
家がなく、飢え、人々が道に倒れていた。
その光景を見て、感情より先に涙が溢れてきた。
彼等は望んでないのに、もしかしたらとても頑張った人生なのに、この暮らしなのだ。
自分は衣食住に困ることもないのに、自分は誰より不自由だと思い込んでいた。
彼等は間違いなく、帝国の民であり、私の民だ。
それなのに、こんな生活をさせていて良い訳がない。
その後すぐに、四人に皇帝になると宣言した。
『それが殿下の望みなら、必ず叶えましょう。』
レオが最初にそう言うと、四人は臣下の礼をした。
思えば、側近になってほしいと伝えるより先に、彼等は臣下の礼をしていたことになる。
そして後日、私にも侯爵たちにも無断で、陛下に側近になると宣誓するというサプライズをされることになった。
エドとリンは、侯爵家の人間らしく、この国が第一だ。
だからこそ、レオは私の忠臣になると言ったのだろう。
アルは、既に私が “親友” だと宣言していたから。
今でもレオには申し訳ないことをしたと思うけど、あの頑固者は絶対に覆さないだろうから、私はせめてお前が誇れる皇帝になろうと思う。
必要ならば、優しく微笑もう。
時には、冷酷な決断をしてでも民を護ろう。
まずは皇太子を目指して動き出し、陛下はすぐに気付いたようで声をかけてきた。
『やっとやる気になったのか?』
クスリと笑う父がなんだか不愉快だった。
『必要があれば、誰であっても蹴落としますよ。』
皇帝陛下の貴方でもね。
意識してなかったけど、多分すごく悪い顔で笑ったのだろう。
陛下が後退りするところ初めて見た。
陛下であり父親だけど、それでも貴方が民を護れないことがあれば、私はその玉座から蹴落としてみせよう。
豪剣と炎魔法で有名な
【剣】のアグニエイト嫡男レオナルドは
脳筋や勢いで決断したわけではなく、
優しくて強い人なのです。
これから伝わっていくといいな。