皇太子殿下 ウィリアム
五章の2話目です。
連続で2本投稿していますので、
読み飛ばし注意です。
アルは、なかなか話出さない。
躊躇ってくれるってことは、私のことを大切に想って言葉を選んでくれているのだろう。
良いことだよね。
「ウィル、聞きたいことがあるんだけど。」
「なに?」
「アリスと婚約したかったの?」
おっと、思ってなかった切り口だ。
婚約する予定があったの? とか、婚約者候補だったの? と聞かれると思っていた。
「そう思ったことはないよ。どうして?」
答えは察している。
エトール伯爵家のことで夜会が開かれたとき、アルは陛下や公爵、辺境伯の密会の現場に呼ばれていたから、陛下と辺境伯の気安い仲に思うことがあったのだろう。
「陛下と辺境伯は、友人として親しく話をされていた。ならば、あの出逢いのお茶会は、第一皇子とアイティヴェルのご令嬢のお見合いを兼ねていたのではないかと思った。」
やはりそうか。
陛下と辺境伯は学友らしいし、ついでに言えば先代皇帝と先代辺境伯が親しかったことは有名だからな。
「母上から直接聞いたわけじゃないから推測だけど、あのお茶会の目的は私とアリス嬢の顔合わせ、もうひとつが私と四大侯爵家の令息たちとの顔合わせだったのだろうね。」
アルは視線が俯いてしまった。
私としては、気付いていたけど別に積極的だったわけではないし、全然気にしていないのだけどな。
「俺、アリスが好きなんだ。愛してる。でも、お前のことも親友だと思っている。できれば、お前が繁栄させるこの国でアリスと暮らしていきたい。」
ん? なんかとっても飛躍してない?
私のことは大切に思っているけど、婚約者は譲れないから私が略奪するつもりなら国を出るっとこと?
そもそも、何で私がお前の出奔を許すと思うのかな。
アルのことは、面白い人柄が気に入っている部分も大きいけど、魔力眼持ちがいるだけで戦争の小さな火種が勝手に消えるのだから逃すつもりはない。
まぁアルは決めてしまったら絶対行くから、そのために日頃からその原因になりそうなことは潰しているつもりだ。
「アル、しっかり聞いて。母上は、お互いに気に入れば上手く話が纏まらないかなって期待していたかもしれないけど、私はその話に興味がなかったんだ。どうせ国の利益になる女性を娶らされると思っていたし、その相手に、愛情とか期待とかしてかなったから。」
「そういうの久しぶりに聞いた。お前のそういう自己犠牲が、俺は嫌いだ。」
知らなかった。
子どもの頃の私は、自分を大切にしない生き方をしていたから、それを言葉にしてしまうことも多々あったけど、アルは表情筋死んでたから嫌悪感があったなんて気付かなかった。
「今はそんなこと思ってないよ。レオにもう怒られたくないしね。」
レオは年下の私たちに怒ったりはしない。
温厚で、男らしくて勇ましいけど、とても優しい。
「レオを怒らせたの? なんて物騒な。」
「その言い方だとレオが暴力振るいそうに聞こえる。」
「そんなわけない。レオは果てしなく優しい。けど、絶対怖い。普段怒らない人が怒るのが一番怖いのだとアリスは言っていた。実際にミハイルは怖かったし、ちゃんと見たことないけどノアだって絶対怖い。」
アルの弟、ノアルトか。
ちなみに私は怒っているノアルトを見たことがある。
もちろん原因はアルのことだ。
子ども向けのお茶会で体調不良を起こしたアルを、軽視した発言をした貴族が居た。
それに誰よりも素早く対応したのが、ノアルトだった。
いつも笑顔で兄に付いていたノアルトが、表情を喪失して、魔力を溢れさせながら怒る様は迫力があったな。
『お尋ねしても良いですよね? 貴殿は兄上を軽視できる程の何かを成し遂げているのでしょうか?』
という一言から始まって、アルの良いところを延々と語っていた。
相手の男は、怯えても叱責され、同調しても蔑視され、どこにも逃げ場がないという状態だった。
まだ十にも満たないノアルトの冷たいアイスブルーの瞳に、ゾッとした貴族は多かったと思う。
なんせ相手は子どもの付き添いで来た男爵、当然大人だったのだから。
結局ユアランス侯爵が戻ってきて、『アルの様子を見に行かなくて良いのか?』と言われるまでずっと続いた。
私は止めてやる義理もないし、面白いから止めなかった。
まぁ、レオやエド、リンも止めなかったしね。
ノアルトは本当に兄のことばかりだ。
アル曰く、ノアルトは器用で、始めれば何でもすぐに出来るようになる天才体質。
だが、何に対しても本当に興味がない。
剣術も魔法も、将来兄の補佐をするなら必要だと言われて始めて、すぐに覚えてしまったので極めることはしなかったらしい。
正直、能力的には補佐官として手元に欲しいくらいだ。
ノアルトは絶対アルの傍を離れないだろうから、呆気なく断るだろうけど。
好きな話には“いいね”
続きが気になる方は“ブクマ”
お願いします!