設計図を作ろう
少し散策して、お弁当を食べて、俺たちはのんびり過ごした。
ハンナに頼んでアリス用に簡易絵描き道具も持たせてもらったので、絵を描きたければどうかと勧めてみた。
そして今は、木炭のような物でサラサラと描いている。
涼しい風が髪を揺らす。
鳥の鳴き声がする以外は本当に静かだ。
「寒くないのですか?」
隣に居るアリスがそっと体を預けてくれた。
軽すぎる重みと、ブランケット越しなので気の所為だろう体温が心地よくて、ドキドキする。
「たった今熱くなりました。」
「ふふっ、私の暖のためにこうしていますね。」
アリスはサラサラと絵を描き続けているが、今目が合ったら俺が蒸発しそうです。
それでも、欲がでてしまう。
「これから、もっと寒くなると思うので、もっとくっついてもいい?」
「ふふっ、はい」
俺は左手をアリスの腰に回して、ギュッと抱きしめた。
一応言うが、肩を抱いて絵描きの妨げにならないためであって、決して下心ではない。
寒くなる原因が俺だと分かっていているのに、アリスは許してくれた。
……………… 好き。
「私が描いてる間お暇にさせちゃってますか?」
「そんなことないよ。俺に絵心があればアリスを描きたかったし、ノアみたいに器用なら氷の彫刻でアリスを作るのも有りだったなとは思うけど。」
見たことないけど、ノアなら彫刻暗い簡単にできそう。
魔力操作能力がずば抜けているから、彫ったりすることなく完成するのだろうな。
「私を?」
アリスが上目遣いで俺を見た。
可愛い、好き、早く夫婦になりたい。
貴族として紳士であれ。
物語の騎士のように硬派で真面目であれ。
そう思っているのに、理性がグラグラする。
俺はアリスの頬に唇を落とした。
頬に、耳元に、額に。
優しく、そっと、宝物に触れるように。
「…………許して?」
そっとアリスに体重をかけて、唇をそっと落とした。
結果、森が一面真っ白になった。
今の時期に湖の周りに咲く花は冷気に強いらしいけど、全ての植物が凍りついて、氷の結晶が舞って、植物は無事だろうか。
「皇族の私有地を真っ白にして、怒られますか?」
怒られるかな?
けど、俺が訓練していただけあって、此処には熱い蒸気が上がる魔道具がある。
「大丈夫。」
湖の周りに設置されている魔道具に魔力を込めると、蒸気があがって湖付近からゆっくり土が見え始めた。
体内の魔力がだいぶ減ったので、魔力操作がしやすい。
けど、辺り一面が蒸気で真っ白で景観を損ねている。
申し訳ない。
「霧の中の景色も素敵ですね。」
「有り難う。」
あ、鏡がないから多分だけど、俺の瞳が元の色に戻ってる気がする。
「アイスブルーも素敵ですね。」
「…………金色が好きなんだと思ってた。」
「私は貴方が好きなんですよ。」
完敗である。
魔法を使ってる途中にこんなこと言われて、膝から崩れ落ちなかった自分は偉いと思う。
それからは、またのんびりと過ごした。
再び寄り添って過ごしている。
「俺、アリスと一緒に居られればそれだけで良いと思ってたんだけど、最近ちょっと変わってきて」
「どんな?」
「結婚式のドレスは一緒に選びたいなとか。アリスがユアランスを気に入ってくれれば領地で式をあげたいなとか。爵位を譲られるまでは両親が皇都に居るだろうから、領地でアリスと魔物や植物の研究事業をやってみようかなとか。娘が嫁ぎたくなくなる家庭を作るにはどうしたら良いのかとか。色々考えちゃって。」
「未来の設計図を作ろうとしてるのですね。」
アリスの顔が少し赤い。
なんか変なこと言ったかな?
「それから、そうだな、夫婦円満の秘訣を教わりにアイティヴェル辺境伯と先代辺境伯と一度ゆっくり話してみたいなとか。」
「それも有りかもしれませんが、私たちなりの形を作ることもできると思いますよ。」
「なるほど。」
「アディが未来のやりたいことで増えたなんて、なんだか嬉しいですね。」
アリスはそう言って微笑んでくれた。
ちなみに、外に待機していたビリーとハンナは、一面真っ白になったことの理由を察して、警備が中に踏み込まないようにしてくれたらしい。
俺としては、本当に今後は対策を立てて行きたいところ。
魔力を吸う魔道具は悪用防止のために国が禁止しているから、俺は魔道具使ったり討伐で魔力を発散しているわけだけど。
せめて感情に左右されるタイプじゃなきゃ良かったな。
後日、当然ウィルにはバレていて、とても笑いが堪えきれてない様子でだった。
「何か良いことがあったのだろう? 乾杯しようか?」
なんて言っていた。
やめてください。
四章最終話です。
四章では明らかになった事柄がいくつかありますが、
五章では更に……… 色々あります。
ここまで読んで下さり有り難うございました。
アディとアリスの今後を応援してくれると嬉しいです。