優しかったよ
前話いつもと違う時間に投稿しています。
確認お願いします。
今日は約束の日。
アリスを迎えにアイティヴェル邸まで来ている。
「門限は守って下さいね。」
「もちろん。」
ミハイルはいつも同じことを言う。
邸に居ないときにも、わざわざ門限のお知らせが事前に届くくらい徹底している。
「アディ、お待たせしました。」
「アリスを待つ時間だって、至福の一時だから気にしなくていい。」
「普通は待ってないと言うところだろう。」
アリスの服装は、ふんわりと纏めているが貴族の軽装だ。
ハンナにだけは事前に行き先を伝えていて、必要な物を準備をしてもらった。
今日は馬車で移動する。
「どちらに行かれるのですか?」
「光の森。」
「光の……え? あの皇族しか立ち入れなかったと記憶しているのですが?」
確かに皇族しか立ち入れない場所だ。
今日の使用許可証もウィルにもらっている。
「ウィルに許可証用意してもらったし、一区域を貸し切ってるから他の皇族に会う心配もないよ。安心して。植物園だと思って大丈夫だと思う。」
デート中に邪魔が入るなんてありえないから、皇太子殿下の区域に続く道のり全てを立ち入り禁止にしてもらった。
昔は皇族が同伴しないと立ち入れなかったけど、人目につかないこの場所は本気の訓練をするにも丁度良かったから、ウィルが立太子したときに法案の改正を推し進めた。
陛下は、『あそこは皇族の憩いの場なのに』と言っていたけど、ウィルは『うちの側近の本気の訓練から民を守ることはとても重要』と押し切ったらしい。
「え、植物園? あの、どうして光の森に?」
「昔から遊びに来たり訓練に来たりしていたんだけど、此処に特別な花があって今が見頃だって聞いたから。」
「まぁ! どんなお花なのですか?」
アリスの表情が輝いた。
覚えている限りの話をしたけど、アリスはとても興味を持って聞いてくれて、楽しみになったようだ。
ウィルが皇太子になって得た区域であり、訓練所は森の中に、表側は景観を重視している。
昔は皇太子に招待を受けて入ってみたい貴族、特にご令嬢が結構いたみたいだけど、今は全くないそうだ。
理由は明白。
大魔法の訓練で地鳴りがすることで有名になったから。
俺の氷魔法とレオの炎魔法がタイミング悪くぶつかってしまって、大爆発になったこともあるしね。
あれは、さすがにとても怒られました。
「花は見てからのお楽しみ。」
「楽しみにしています!」
目的地は近い。
馬車で来た理由は、ウィルに絶対精獣や馬で来るなと釘を刺されたからだ。
言われた通り、ユアランスの家紋が入った馬車で来た。
門番に通行証明書を見せて、門を超える。
「素敵……!」
湖の周りを花が囲んでいる。
皇族の土地だけあってか、なんだか幻想的だ。
「此処さ、この花を枯らしたら婚約者は悲しむだろうなって言って、ウィルが俺に魔力制御を叩き込んだ場所なんだ。」
この湖を凍らせる訓練を受けていた。
冷気が強ければ花が咲かないし、湖からはみ出て凍らせることも禁止だった。
「殿下は、厳しかったのですか?」
すごく厳しくて、とても優しかった。
だって、魔力の制御なしで俺は、生きられなかったから。
剣術も始めてからは、血だらけになったり、吐いたり、それでも体を作るために乱暴に食事を取ってまた吐いたりしていた。
そういう姿をアリスが見ていたら、きっとまた泣かせてしまっていただろう。
生きるために仕方ない、そう解っていてもアリスは本当に優しいから。
「優しかったよ。」
お前に生きてほしい、そう言ったウィルは本当に優しかった。
俺の命を諦めないでくれて感謝している。
レオだって倒れたら運んでくれたり、エドは打ち合いはできないからと防御魔法を極めてくれた訓練させてくれたり、リンは同様の事例を調査してくれた。
そんなに昔のことでもないけど、なんだか懐かしいな。
俺は少しずつ魔力を込め、湖の中央に氷の花を創った。
ただし、細かい物を創るのは苦手なので、ものすごく大きく、ものすごくたくさん。
今日は日除けを兼ねています。
アリスの好きな向日葵の花を目指してみました。
そんな話をしているうちに、使用人たちが敷物とお昼用のランチバッグを用意しておいてくれた。
今使用人の姿が見えないのは、ビリーとハンナあたりが気を利かせてくれた気がする。
「わぁっ! 素敵ですね!」
アリスの表情がキラキラして見える。
俺の魔力量だと水かさを減らすことなく氷を想像できるから、湖を凍らせてその上に巨大な花畑を用意したので本当に花の背丈が高い。
「本当はもう少し可愛らしく作れたら良いんだけど……」
「十分可愛いですよ?」
「あ、寒くならないように羽織をハンナに頼んであるから」
ブランケットをそっとかけて、しっかりとアリスの体をくるむ。
俺は魔力の適切で寒さに耐性があるけど、この季節にこれは寒いというのが一般的らしい。
実はハンナに頼んで魔物の素材からの品を用意してもらい、アリスはすぐに気付いたようで微笑んでくれた。
俺に嫌悪感なんてないよって分かってくれただろうか。
読んでくださり有り難うございます。