愛の証明
店を出た俺はとにかく深呼吸。
間違いなく魔力眼が光っているはず。
片手で顔を隠したままだ。
「ごめんアリス。もっと見たかったよね?」
「大丈夫です。貴方のその輝く美しい顔を人に見られたくなったので、私の我儘で店を出たのです。」
これ以上は爆発する。
物理的に。
魔力暴発で怪我を負わせてしまった過去があるのに、アリスはこういう時でも、必ず傍に居て落ち着くのを待っていてくれる。
落ち着いてきて、顔をあげられるようになるまで、アリスはずっと手を繋いで隣にいてくれた。
「そういえば、今回ちょっと特別な靴を作ってもらったのです。」
普通のオシャレな靴に見える。
足首を固定している部分に花の装飾なんかもあって可愛い。
アリスがとても可愛い。
「特別?」
「ヒールが少し太めにできてまして、足首を固定する部分もあって、それから中もクッション性の高い素材を使っているとかで、とても歩きやすいのです。」
ヒールのある靴を履いたことがないから、どう楽なのかは分からなかったけど、それでもアリスが歩きやすく気に入っているならそれで良い。
「実はこれ、討伐した際の魔物の素材を使っているのです。アイティヴェル領に研究所があって、今回はお願いして作ってもらいました。」
研究施設?
魔物の素材を有効活用できるなら、それは凄いことだと思う。
国に報告はしてるのだろうか。
けど、今はそれより気になることがある。
「ねぇアリス、もしかして今までのデートで靴擦れしてたり、足を痛めたりしていた?」
アリスは何故か驚いたように固まってしまった。
今まで足を痛めていたのに気付かなかったのだとしたら、俺は婚約者失格なのでは。
「え? …………あ、一度だけ?」
何故首を傾げるのか。
けど、やっぱり靴擦れしていたのか。
「気付かなくてごめん。今からでも抱えさせてくれないかな?」
「え…… え? 抱え??」
アリスが固まってしまった。
何に驚いたのだろう。
「嫌じゃないのですか?」
「アリスを抱きかかえて歩くことは至福だけど?」
「あ、いえ、あの…… 皇都では、魔物の素材を嫌悪する貴族が多いと聞いて、私入学するときに全て置いてきていて……」
娘が万が一にも、アリスがイジメられたりしないように説得したのだろうな、辺境伯。
そんなこと起こさせるわけないけど。
というか、アリスが気になったのは、俺が嫌悪するのではないかってことだったのか。
そこは別に気にしなくても何の問題もないのに。
「嫌だなんて思わないよ。討伐っていうのは人員も必要だけど、物凄くお金がかかるものだから、討伐した魔物を有効活用できているなら凄いと思う。」
「ほんとに?」
「ほんとに。一応討伐組織の責任者としての訓練も受けてるし、一度の討伐にどれだけ予算が必要か知ってるつもりだから、その成果を金銭に変えられるなんて立派な事業だと思う。」
俺はアリスのしたいことは何だってさせてあげたい。
そのための努力は何だってするつもりだ。
「アリス。俺の愛はこんなことでは何の影響も受けないよ。」
アリスは桃色の愛らしい瞳を大きく開けて、こっちを見たまま動けないでいる。
言葉を発しようとしているのか、口を開けてはまた閉じてしまう。
優しい彼女のことだから、俺を傷つけない言葉を探しているのかもしれない。
「アリス。俺にチャンスをくれないかな? 改めてデートしてほしい。再来週とかどうだろうか。」
来週はエトール嬢と約束があると事前に聞いていたから、再来週を提案した。
俺としても準備は整えたいから丁度良い。
「はい。でも、あの、チャンスとは?」
さっきまで固くなっていたアリスが、今度は頭にめいっぱいの疑問符を浮かべている。
愛の証明って難しいな。
更新までお待たせしました。
大事な部分のデータも消えてしまったので
本当泣き……
一度消えたものは似たものは書けても
同じものは作れませんね。
データは大切。