アイティヴェル辺境伯家 アリス
お茶会はとても楽しく過ごすことができました。
侯爵家の嫡男で、皇太子殿下の側近の誕生日パーティということで、様々な思惑で参加された方もいらっしゃったようですが、悪質なものは全て塵と化したでしょう。
ファンブレイブ様に言い寄ろうとして、アンジェ様を悲しませる者が減ることを祈るばかりです。
それから、聖女様はまた欠席でした。
問題は減りますが、教会との仲がよろしくないのかと勘ぐらたりしても面倒だとアディが言っていました。
お茶会いの後、私はアディと約束通りデートです。
手を繋いで歩くこの時間が好き。
今日は明らかに貴族の装いなので、侍従と護衛も後ろに控えています。
うちからはハンナしか連れて来ませんでしたが、道行く人が騎士のマントにあるユアランスの家紋を二度見してます。
「混んでるね。」
「女性客が多いと思いますが、本当に大丈夫ですか?」
「アリスと行ける場所なら、どこだって一緒に居たいよ。」
此処は、一点物のアクセサリーの注文を専門にしている店。
それから、注文をする際に恋の相談をする方が多いようで、占い師のような扱いで人気でもある。
私は占いをしてほしいわけではないけど、作ってほしいアクセサリーがあって来てみたかったのです。
「一階は展示品が並んでるのか。」
「そうみたいですね。今日は時間が曖昧だったので予約してなくて、この階だけ見たいのですが。」
そうお伺いをたてると、アディはすぐに了承の返事をくれた。
女性が見て回るばかりの買い物なんて、男性にとっては面倒だと思うけど、アディはそうではないようですね。
適当に見てまわるなかで、アディは時々考えるような瞬間があるので、もしかして気が付いたのかも。
「このアクセサリーってモチーフになった人が存在する?」
今目の前にあるアクセサリーは、十字架のネックレス。
十字架ですが下部分が少し太く、なんとなく剣を思わせるデザインで、先がほんのり赤くグラデーションになっています。
そう、アグニエイト様を思わせるデザインです。
アグニエイト様は深紅の髪、炎魔法が得意で、騎士としての印象が強く剣を振るう姿が人気だとか。
「そうみたいですね。恋人、婚約者、夫や妻を想って注文される方も多いですが、このようにファンの方が依頼されることも多いようです。これはアグニエイト様のファンに人気だそうです。」
「レオのファン‥‥‥ こういうのって良いの? レオなら怒らないとは思うけど。」
「同士には分かる、という程度にするのがファンの場合は鉄則だそうです。」
今回のようにたくさんのモチーフを見るとか、こういう物があると知らない限りは簡単には分からないでしょうね。
こういうのアディは嫌いなのかな。
学園では密かに同士を見つけることができて、楽しく話ができると話題なのですが。
「アリスは、誰のファンで此処に来たかったの?」
「え? 私はアディがモチーフのアクセサリーを注文してみるのもいかなって思いまして。」
「俺の‥‥‥‥」
アディの顔色がほのかに染まりました。
いつも素直で、こういうところほんと可愛いです。
言えませんが。
「もちろんアディが嫌ならやめます。」
「嫌じゃないよ。嬉しい。」
嬉しいと言う割に、嬉しいだけではなさそうな感じです。
何か気になるのかと聞いてみれば、私のモチーフが存在して誰かが持っているのかと尋ねられます。
でも、それはありえないことを伝えて、店内の張り紙を指差します。
『婚約者、恋人が居ると公表されている方のモチーフは、お相手の方以外からの注文はお受けすることができません。』
このルールは徹底されているそうです。
注文して、まずは事実確認に時間がかかり、それから制作に入るから時間がかかるとか。
「なので、アディや私の品は存在しないはずです。此処のお店のデザインが凄く良くて、紛い物は反感をかうそうですから尚更。」
「安心した。アリスのモチーフを持つのは、誰であっても許せなかったから。」
「私もですよ。アディは有名かつ人気も高い方ですが、私は貴方を思わせるアクセサリーを他の方が持っているなんて許せません。アディの全てを独占したいですから。」
「んンッ」
アディは手を繋いでいない方の手で、勢いよく顔を覆ってしまいした。
私はそっと手を引いて店をでます。
貴族以外も出入りする店ですが、
オーダーメイドなので高いのです。
なので貴族ばかりの店。
書き溜めていたデータが吹っ飛びました。
泣ける……