エトール伯爵家 アンジェ
「申し訳ありませんが、取引先については、まずはファンブレイブ侯爵様に相談させて頂こうと思っております。我が家の支援を真っ先にして下さったのは、妹の婚約者のファンブレイブ侯爵家のエドワード様ですから。」
お兄様は、本当に感謝しているのです。
領民はお兄様が伯爵になることを、泣いて喜んで下さったのですから、私たちはこれで良かったと今なら思えます。
「ファンブレイブ侯爵閣下には、恩を取引で返してもらう必要はないから、エトール家のことを一緒に考えようとおっしゃってくれました。」
今は邸が改修中であり、お兄様の勉強にも便利という理由で、ファンブレイブ侯爵邸にお世話になっています。
もし侯爵様がエトール邸に使用人を新しく手配してくださっても、まだまだお兄様には御せる力がないための配慮でもあると、私たち兄妹は知っています。
社会的に墜落しているエトール伯爵家では、尽くしてくれる使用人を得るのは難しいですから。
後見人や支援者の力は、自分たちエトールの力とは同義ではないのだと、お兄様は言っていました。
私たちは、この恩に報いる努力をしていくのだと。
ユアランス様がアイティヴェルを取引先として検討してほしい提案されたときには、ミハエル様のことでお兄様も頭がいっぱいになっていましたが、ミハエル様本人にとても叱られたようです。
恩を返したいと思うならそれは今ではない。
ミハエル様はそう言って、まずはファンブレイブ侯爵に相談をするように仰ったそうです。
一番の支援者であることもあるが、妹が嫁いだ後に義父と円満な関係を築けるようにと。
私、泣きました。
そして、ファンブレイブ侯爵様に相談に行くと、侯爵様は当然のように話を進めてくれて、これが正解だったのだと安心しました。
今日のファンブレイブ侯爵は、宰相として陛下のお側にいらっしゃいますが、昨夜「対策はしておいた。」とだけ伝えられました。
もしかして、アグニエイト侯爵に来て頂けるように?
冷や汗がでました。
「エド様、知っていたのですか? 侯爵様の対策を」
「いや、知らなかった。」
知らないのに、昨日侯爵様にお礼だけを答えたのですね。
これが普通の貴族の親子なのでしょうか?
父親と一緒に食事をしたことも、団欒をしたこともないので、私には判断ができません。
ちょっと目を離して考えていた間に、アイティヴェル辺境伯様とアグニエイト侯爵様がお兄様に挨拶をして別れていました。
ミハエル様はそのまま残ってお兄様と話すようです。
アリス様が私の方に来て下さいました。
ただ、視線がすごい向かってきます。
アリス様がこちらに向けてくれた笑顔に、周りの方々が頬を染めています。
鉄壁の護りがいらっしゃらないようなので、いつもより多いような気がします。
「アイティヴェル嬢、アルは?」
「ユアランス侯爵様にお供しなくてはならないとかで」
えっ、それって現在アリス様にはパートナーが不在?
聞こえていたらしい男性たちが、アリス様にダンスを申し込もうとしているようで、気が付けば周りに人だかりができています。
お兄様でも連れてくる?
でも今忙しそうだし、ユアランス様から信用を得ているか分からないから危険かも。
どうしましょう!?
「アリス・アイティヴェル嬢、ご挨拶させて下さい。」
あぁ! アリス様が声をかけられて‥‥‥
ユアランス様、申し訳ありません!
アルがなかなか登場しなくてすみません……