ファンブレイブ侯爵家 エドワード
陛下の報告が終わった途端、リュカベルは人に囲まれた。
アンジェ曰く、彼は歩くのも少々不自由なことを気にしているし長男でもないからと、社交の場には殆ど来たことがない。
アンジェが、傍に居たいと申し出たときには涙ぐんで感謝していた。
リュカベルは、「地味だし、こういう所に来たこともないから探されても見つからないのでは」と言っていたが、そんなわけはない。
何度も私がエスコートして顔を覚えられているアンジェは、リュカベルと色や雰囲気が似ているし、足を引き摺っているなんて特徴は目立つはずで、それだけで特定は容易いだろう。
「エトール伯爵! 私は近隣領地で」
「あの婚約者はいらっしゃいますか!?」
「アイティヴェル家とは仲が良いようですが」
皆で同時に話されても分からないだろうに。
アンジェが隣で助けに行こうとソワソワしているが、私はリュカベルの後ろに気付いてアンジェの手を引いて引き止めた。
「リュカベル、久しいな。」
「お久しぶりでございます。」
「ミ‥‥‥、ア…!?」
おそらく、ミハエル様、アイティヴェル嬢と言いたかったのに、ふたりの傍に居た人物に気付いて固まったな。
「久しぶりだな、リュカベル。いや、エトール伯爵と言ったほうが良いか。息子と仲良くしてくれて有り難う。それに、貴殿の妹君も我が娘の親友だそうだな。アリスがいつも楽しそうに話してくれているよ。」
一気に静かになった。
ミハイルとアイティヴェル嬢だけでも壮観だが、辺境伯が現れて更に威厳が増して輝かしい。
「辺境伯様、あの、お礼を言いたいのは私の方です。それに、後見人になって頂いた身ですので、どうぞこれからもリュカベルとお呼び下さい。」
リュカベルが練習通り頑張ってるのに、私の隣のアンジェは辺境伯の言葉が嬉しくて涙目だ。
サッとハンカチを出して、目元を化粧が崩れない程度に軽く押し当てて拭うと、今度は笑顔を向けてくれた。
「おや辺境伯。夜会に来るなんて珍しいのでは?」
まさかの新しく大物登場。
真紅の髪が輝く男を前に、周りは皆後退りぎみだ。
「これはこれは、アグニエイト侯爵。リュカベルにご挨拶ですかな?」
「当然です。リュカベルを伯爵に最初に推薦したのは、この私なんですから。」
アグニエイト侯爵は、筋の通ってないことは大嫌いだが、それでも柔軟な価値観を持ち、領地を拡大し財を成したやり手だ。
真紅の髪はレオと同じだが、瞳の色は薄灰色の人物だ。
幼少期には、皆で剣の特訓をしていたところを見つかり、みっちりと扱かれた覚えがある。
お茶会や夜会の誘いは、アグニエイト侯爵家とアイティヴェル辺境伯家に気を遣わなければならない分減りそうだが、婚約申込書はとんでもない量が届きそうだ。
「あの、辺境伯は樹蜜の取引などをしているのでしょうか? 領地にも樹蜜はあるのにそれはあまりにも独占では」
少し痩せた体が目立つ貴族だ。
どこの家門かまでは分からないが、なんとしてもお溢れが必要なのだろう。
「その話は何もしていない。私はただの後見人だ。」
「もちろんアグニエイトと契約してるわけでもなく、アグニエイトもただの後見人だ。彼は人となりが素晴らしいからね。」
リュカベルが喋ることもなく、双璧が良い仕事をしている。
「差し出がましいことを言い申し訳ありませんでした。エトール伯爵、我が領は貧しくて、貴殿との取り引きを心から望んでおります。」
これは、分かりやすく無礼だ。
まず謝罪に返事を貰わず、他の者に話しかけるなんて、普通はありえないことだ。
更に、貧しいから取り引きを優先してくれだなんて、リュカベルが返事を間違えれば心象が悪くなるし、優しい人柄を此処で見せていた方が良いのでは? と言ってるようなものだ。
エドがアンジェに
分かりやすく優しくて嬉しい。