アグニエイト侯爵家 レオナルド
皇帝陛下が主催の夜会は、まさしく貴族の召集と同義。
急を要する期間での開催を考えると、間違いなく大きな何かが起こることは明確である。
それによって、領主は頭を抱えることになるかもしれない。
もしくは、浮かれて飛び上がることもあるかもしれない。
貴族や商家、他にも莫大な富が動く可能性がある。
皇都も領地も、産業が動く可能性すらある。
会場に入ってからも、ピリピリした空気が漂っている。
「ユアランス侯爵家アルグランデ様、アイティヴェル辺境伯家アリス様、ご入場です!!」
うわぁ、フル装備じゃん。
この短期間で新しい衣装を用意したのか?
「アリス様素敵! 何あれ新しさを感じる! あんなの誂えるなんて、とてもこの期間では間に合わないはずのに!」
妹が饒舌である。
そして令嬢なのに、あんなに美男子のアルにはこれっぽっちも興味がない。
「お前も今日は邸にあったドレスなんだろ?」
「そうよ! 型落ちしてるなんてことはないけど、新しさまでは追求できないわ。」
それにしてもアル、婚約者を見過ぎだ。
それに気付いたアイティヴェル嬢が視線を合わせて微笑むから、アルが溶けそうな甘い笑みを浮かべる。
一同騒然だ。
いつも愛想の欠片もない氷狼の騎士が見せた、新種の表情に男たちが驚き、女性たちは顔を赤面させる。
いつ見ても罪深い美形だよね、アルって。
中身はちょっと……独特だけど。
「ファンブレイブ侯爵家エドワード様、エトール伯爵家アンジェ様、ご入場です!!」
えっ、エドたちまで。
アリス嬢と形が似ていて色や柄が異なるドレスをエトール嬢が纏い、その色はエドの瞳の色に合わせている。
アルとアイティヴェル嬢と同じ仕様だ。
「エトールってあの‥‥‥」
なんて口にしたどこかの令息が、エドに強めに睨まれている。
「アンジェ様! こんなに早くお逢いできて嬉しいです。」
「アリス様、私もです。」
今日も御二人の笑顔が眩しいですね。
手を取って微笑み会うふたりは、本当に仲良しなのだと分かる。
その様子に驚く貴族たちは居るが、子である令息と令嬢たちが学園でもとても仲良しなのだと伝えている。
ちょっと面白い光景だな。
子が親に対して「有名ですのよ?」なんて言ってるのが、なんというかちょっと笑える。
当主が罪人となり没落寸前のエトール伯爵家、と思っている彼ら彼女らには理解できないだろう。
今もファンブレイブ侯爵家嫡男のエドがエスコートをし、アイティヴェル辺境伯家のご令嬢の親友なのだと聞かされてもピンと来ないかもしれない。
「挨拶に行こう。」
「挨拶、ですか?」
妹は婚約者を探している身なので、嫡男である自分の社交の場への同席が多い。
その妹ならば気付いただろう。
家格は同格、更に言えば友人、そして社交の場では離れて過ごすようにいつもは気を遣っているのに、わざわざエドたちに挨拶に行く意味を。
「素敵ですわ、お兄様。」
「やめてくれ。」
そして俺たちは、エドとエトール嬢挨拶をし、ついでにアルとアイティヴェル嬢にも挨拶を済ませた。
妹が気になってドレスについてあれこれ聞いていたけど、シンプルな素材に自分でアレンジしたんだって。
すごくない?
「アンジェ様、そのブローチ素敵ですね!」
「有り難うございます。兄のリュカベルから子どものときに頂いた、大切な宝物なんです。」
「まぁ! 素敵なお兄様なのですね。」
妹のシャルロッテの言葉に、本当に嬉しそうにエトール嬢は笑っていた。
リュカベル、大丈夫かな。
皇帝陛下夜会編
スタートしました。