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婚約解消も婚約破棄も事実ではありません ~最強魔導剣士の初恋の行方~  作者: 陽宮 葵
四章 教会の聖女とアイティヴェル
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【閑話】 アリスからの手紙




『突然お手紙なんて、驚かせてごめんなさい。

 はしたないって思われていないか心配しています。』


 嬉しすぎるのに!

 いやとりあえず続きを。

 

『私の両親と祖父母は、夫婦間で手紙の交換を頻繁にしていて、私も憧れていたのでこの機会に挑戦してみました。

 記念日に手紙を贈り合ったり、喧嘩をしたときに仲直りのきっかけにしたり、日々の感謝を伝えたりしているそうで、とても素敵だと思っていたのです。』


 待っ……………てほしい。

 アリス、アリスは、俺とそういう夫婦になりたいって思ってくれたってことだよね?


 どうしよう、嬉しくて爆発しそう。

 帰宅するまで読むの我慢して本当に良かった。


『アディ、いつも時間を作って会いに来てくれて有り難うございます。私のことをいつも思いやってくれて、そんな婚約者がいて私は幸せです。』


 俺が会いたいからなのに、感謝されるとは思っていなかった。

 でも、アリスが幸せだと言ってくれるなんて、俺は泣きそうな気持ちになった。


 いつだって、アリスを幸せにできるか不安になることはある。

 怪我を負わせてしまって、それでも俺に怯えることなく笑ってくれて、これ以上望むべきでないと思ってもどんどん欲深くなる。


『それから、気になっていたのですが、アディはいつも自分ばかりが私を好きだと思っていませんか? 行動の端々で感じています。』


 え!?


 いや、うん、思っているかも。

 惚れたのは俺が先で、婚約を解消できなかったのも俺で。

 アリスの気持ちを疑ってはいないけど、どうしたって俺の愛の方が重いのだと思う。


『私は、貴方の誠実なところが好きです。

 貴方の素直なところが好きです。』


 ボンッ。


 俺の魔力を精獣が一生懸命吸っている。

 アリスが、俺のこと好きって。

 言ってくれたことはあるけど、まさか文字に残ることがあるだなんて。


 コレ、ゼッタイ家宝にスル。


『貴方の可愛いところが、貴方の輝く瞳が、愛おしいです。』


 い、い、愛おしいって。

 この紙が劣化しない方法って何だろう。


『恥ずかしくて死にそうです。会ったときに顔が赤くなっても許してほしいです。』


 アリスの照れた顔、俺は好きなんだけどな。

 デートのときとか、ハンナが気を遣って髪を結ってくれているの気付いてないのかな?


『面と向かって言うのは勇気があるので、一生懸命手紙に書きました。両親や祖父母はこんな恥ずかしい思いをしているのでしょうか? それでも、やっぱり憧れてしまうのです。』


 アイティヴェル家と言えば、夫婦仲が良いのは有名だ。

 こういうのが夫婦仲を深める秘訣だったりするのだろうか。

 うちの両親も仲は良いけど、なんとなくアイティヴェルは別格な気がする。


『貴方のアリスより。』


 俺の、俺の、………くぅッ、俺のアリス。

 心の中ではそう思っていたけど、これからは堂々と言葉にしても良いのだろうか。







 俺の初恋はアリスだ。


 婚約を申し出て、それが叶ったときには本当に嬉しかったし、初めて長生きしたいと望んだ瞬間だった。


 十を超えるまで生きられないかも、と言われたのは五つのときだった。


 父は言葉を失い、母は泣き崩れていた。


 両親を悲しませる俺の体質が本当に嫌いで、その象徴とも言える魔力で光る瞳が本当に憎いと思った。



 あの日、お茶会に行くのも本当は嫌だった。

 友人ができるかもと言われたけど、死ぬかもしれない俺に大切なものが増えることは意味がないと思っていたから。


 隠れていた場所で、人の気配がして顔を上げた先に居たのがアリスだった。


 駆け寄ってきて「大丈夫?」と声をかけてくれたのに、俺は泣かれたらどうしよう、悲鳴をあげられたらどうしよう、と不安で返事ができなかった。


 幼いアリスは、俺の横にそっと座ってそのまま動かなかった。

 俺に話しかけることもせず其処に留まるのは、気にかけてくれているのだと思い至ったときは本当に驚いた。


 さっき絶対に目が合ったのに。



 婚約してからも、度々不安に思うことはあった。

 俺の身分に気付いて気を遣われた可能性も考えた。

 同じように思ったのか、ノアが影から見守っていたことも知っている。


 それでもアリスは、いつも優しく笑ってくれていたし、寝込む俺の傍にずっと居てくれた。


 俺が寝入った後、俺を心配して涙を落としていたことも知っている。


 ノアもいつの間にか影から様子を伺うこともなくなっていた。



 あの日、アリスを怪我させてしまい、我に返った俺が駆け寄るとアリスは「怪我はないですか?」と俺を気遣って笑った。


 アリスは、ほんとに優しい。



 俺は十六になり、今ではアリスより背も高くなって、アリスより力もだいぶ強くなったと思う。


 少しは、アリスに見合う男になれただろうか。


 俺の愛は重いと自覚しているけど、アリスが勇気を出してくれたのだから、俺も挑戦してみようかな。


 昔、アイティヴェル前辺境伯が題材の舞台を観に行ったことがあるけど、そこでアリスのお祖母様は「言葉にしなければ伝わらない!」と言っていたしな。



 

ノアルトはもちろん最初から

アリスを認めていたわけではなく、

ひたすら兄が一番大切。

ちなみに、アリスの涙を

アディに伝えたのもノアルトです。

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