便箋
学園ではお茶会の話題はすぐに霧散した。
ファンブレイブ侯爵家、その婚約者、聖女、そして皇太子殿下のお茶会。
話題にしたくない理由はそれだけで十分だ。
代わりに話題になったのは、アイティヴェル領で磨きがかかったエトール嬢だ。
アリスが言うには、ずっとご令嬢方に囲まれてあれこれ聞かれているとか。
『アンジェ様はお優しいですから、ひとつひとつ丁寧に話していて、その態度がご令嬢方からとても評判が良いようです。』
と、アリスが言ってた。
エトール嬢が話した翌週には、話題になった商品が売り切れるのだとか。
そして、副産物として便箋がとても売れている。
学園で聞いた話を生徒たちが即日に文にして、実家に送って強請っているのだろうとウィルは笑い混じりに教えてくれた。
それから、その購入した者のお披露目にも、手紙を用いて友人への招待状にしているとか。
「便箋の一番人気がエトール産の物なんだって言うんだから、本当に凄いよね。リュカベル泡吹いてたりしない? 大丈夫?」
「うちの妹の話では、最初こそシンプルな便箋が売れていたらしいが、今話題なのは可愛い便箋らしいな。」
レオの妹は流行に敏感らしいし、たくさん入手してそう。
可愛い便箋というのもエトール産だ。
アリスがエトール領で栞を購入するときに、値段を上げるように説得し、それがきっかけで自信がついた職人が試行錯誤して作った商品らしい。
ただのオシャレな紙を便箋にしたのは、リュカベルのアイディアらしいけど。
アリスとエトール嬢の栞を目にしていた生徒は多く、それが便箋になったことで人気が爆発したようだ。
「そういえば、アル手紙もらえたんだって?」
そう、アリスがその購入した便箋で俺に手紙をくれた。
登校した後、教室が別れる前に手渡ししてくれたので、当然見ていた生徒は多い。
アリスは『日頃の感謝や気持ちを綴りました』って言っていて、それから学園では婚約者や友人にそういう意図で手紙を贈ることが爆発的に流行ったとか。
手紙と言えば、招待状か遠距離での連絡手段という認識だったから、目にした人は目から鱗だったと思う。
俺も驚いた。
「あ、手紙の返事書きたいんだけど、どこ行けば買えるのかな?」
「それなら私が手配しよう。希望がないならオススメを見繕うように伝えるが。」
「シンプルで可愛らしい物をいくつか用意してほしい。」
エドはすぐに手配の準備をしてくれた。
エドはリュカベルに、特別な客用に予備を多めに用意させていたらしい。
そんな所から良いのかなって思ったけど、便箋を広めることにアリスがとても貢献してるから是非って言ってくれるだろうって。
有り難く買わせてもらおう。
せっかくなら特別な手紙にしたい。
こんな感じで、講義のない時間の俺たちは、いつものように集まって、各々好きなことをしながらも近況を報告していた。
早く講義終わらないかな。
今日は陛下開催の夜会のため、ドレスを探しにアリスとデートの約束をしている。
精霊の樹蜜がエトール領で見つかった報告後すぐに招待状が届いたから、間違いなくその話だろうな。
今回は夜会という名前なだけで貴族招集のようなものだから、招待状から夜会までの期間がかなり短い。
普通は陛下主催なら半年前には知らせがあるものだ。
それがこんなに短いのだから、恐らく貴族たちも何かあるのだろうと察して駆けつけるだろう。
もしかしたらオシャレを自慢し合うようなご令嬢もいないかもしれないね、とウィルも言っていたくらいだ。
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