レシピ
「レオ兄、なにこの可愛いお菓子。」
リンが目の前の、それはそれは可愛くデコレーションされたケーキを見つめて言う。
あれは、クマだろうか。
「今日はご令嬢方が同席されるから、最近流行っているという菓子をせっかくだから用意してみた。」
こういうことをスマートにできるレオは格好良いな。
俺なんてアリスを迎えに行くことしか考えていなかった。
アリスは茶葉を用意してきてくれたらしくて、本当にお茶会の雰囲気になってきた。
ポットに温かいお湯を用意しといたウィルが手伝って、あっという間にお茶の支度が進んでいく。
俺はケーキを取り分けてくれたレオからお皿を受け取り、アリスに渡した。
「冷たくて美味しいです。」
「レオ、俺にも店の場所教えて。」
「アイティヴェル嬢の反応から対応までが早すぎる!」
リンにはそう言われたけど、レオは笑いながらも快く店を教えてくれた。
地図に書き加えないとな。
「というか、冷たくて?」
「絶対お皿を仲介した人の仕業でしょ! 僕のも冷やしてよ」
「リンは相変わらず甘えん坊だな。よしよし、今冷やしてやるからな。」
「甘えん坊とかじゃないから!」
「またこんな魔法の使い方して」
さり気なくしたつもりだったのに即刻バレたな。
仕方ない、皆の分も冷やしてやるか。
「アリス様、このお茶とても美味しいですね。何処産の品でしょうか?」
「これはお祖母様が紅茶が好きで、自身でブレンドしたのをメイドたちが引き継いでくれています。私も好きなので、帰省時に母が多めに持たせて下さいました。」
一瞬、空気がピシッとした。
「お祖母様って、もしかして父方の祖母だったりする?」
思わずレオが聞いちゃうのも仕方ない。
アリスの祖母といえば、先代辺境伯夫人のことで、 “革命の貴婦人” として有名な方だ。
政治とか経済面での印象が強かったけど、こういうこともしていたのか。
アリスは普通に肯定の返事をしたけど、これって凄く貴重な茶葉なのでは。
ちなみに先代辺境伯夫妻には、夏の間にアイティヴェル領で会うことはできなかった。
旅行で隣国に行っていたとアリスから聞いている。
避けられていたとかではないらしい。
アリスが好きなお茶ならいつでも用意できるようにしたいけど、先代辺境伯夫人が伝えたアイティヴェル邸だけの品なら難しいかも。
アイティヴェル邸にメイドを修行に行かせるとか?
持ち出し禁止だと難しいか?
「アディ。お祖母様は孫が嫁ぐときには、レシピを持たせると昔から言ってくれてますからね。」
「安心した。」
「アルってどうして婚約者のことだけ分かりやすいのだろうな。普段は無表情なのに。」
レオに言われるほど?
俺、そんなに分かりやすいのかな?
年末ですね。よいお年を!