皇太子殿下 ウィリアム②
さっきまでニヤニヤとエドを見ていたリンが、慌ててドアに向かっていき「ちょっと待って!!」と叫んで飛び出て行った。
「アリス。これがリンだ。挨拶は中に入ってから纏めてで良いだろう。」
これって。
天使に対して紹介が雑すぎない?
まぁ中に入ってからって言うのは賛成だ。
「殿下、皆様、お待たせしたようで申し訳ありません。アリス・アイティヴェル只今参りました。」
普通淑女はスカートの裾を両側に持ち挨拶するが、アリス嬢は片手でスカートの裾を持ち、片手は胸に当てて礼をした。
これは、皇族に対する臣下の礼だ。
柔らかく微笑んで、来てくれたことへの感謝を言葉にしてみるが、アリス嬢を情で籠絡するのは絶対に無理だと思う。
だって彼女、私に少しも興味がない。
だからアル、婚約者の目隠しなんてする必要はないと思うよ?
「知らなかったな。アルグランデが急いで婚約を申し込んだ理由が、まさかリンベルトの助言だったなんて。」
給仕に使用人が入ってきたので、適当な話を始める。
愛称で呼ばないのは、人目を気にしているという合図だ。
「あんなに内気で気が弱かったアルが、好きな子ができたからってすぐ婚約申込なんて俺も不思議だったが、なるほどな。」
ユアランスがアイティヴェルに婚約の申出をしたことは有名だから、この辺りを使用人に隠す必要はない。
それにしても、リンがねぇ。
「まさに悪魔の囁やきですね。」
「悪魔、ですか? 縁結びの使者ではなく?」
世間的に見ればエトール嬢の言う通りかもしれないけど、実際には貴族の勢力図が全て書き換えになるような大事だったからね。
けど、アリス嬢が私の婚約者になる可能性を伝えたのが、リンってことだよね?
アルには口が裂けても言えないけど、アイティヴェル念願のお姫様なんだから、私の婚約者になる可能性は高かっただろう。
ふたりの婚約成立後、私の婚約者候補は全て見直しになったと聞いているし、私はそれを良いことに婚約者を未だ決めていない。
「ユアランスとアイティヴェルの婚約だなんて、当時国では大騒ぎになった大事件だったからな。」
勢力図が一新され、固定化される前にエドは婚約者を決めた。
己の意志で決めるのは今しかないと思ったのだろう。
全員に配膳し、指示通りにポットごと置いて使用人たちは退出していった。
アルの温度維持機能が付いた魔導具のお陰で、お湯の入ったポットはそのまま温かい。
本当便利だ。
「では、お茶会を始めましょう。」
まずは、この場の発言で不敬は存在しないこと、そして此処での話は他言しない、嘘はつかない、という契約書を交わす。
こんなことして頂かなくても、ってエトール嬢は言葉を漏らしたけど、気遣いをなくす目的だとエドが伝えるとなんとかサインしてもらえた。
「私たちの知ってることも伝えたいのだけど、そういう先入観は省いた状態で、こないだのお茶会で感じだことを教えてほしい。」
女性ふたりが隣の同士で目を合わせて、そして頷きあった。
聞いていた通り、ふたりで何かを話し合っていたのだろう。
体が弱く邸に引き籠もりで、
なにより内気でお茶会でも隠れてた
子ども時代のアディが
突然『婚約したい!』となった理由でした。
まさか邸が凍る事件になるとは。