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星送りの祭り

作者: 小畠愛子

 真冬の新月というのは、想像以上に世界が闇に包まれるものです。晴れていれば、星がわずかな明かりを照らしてくれますが、その日は雪が降り積もっていて、まさに黒と灰色がかった白しか見えませんでした。


 さて、そんな静まり返った夜に、ある村ではボウボウと勢いよく火を焚き、村中の人たちが外に出ておりました。お祭りです。しかし、こんな闇に染められた時期に、いったいどんなお祭りをしているというのでしょうか? 少しその様子をのぞいてみましょう。


 雪だるまを作って、はしゃいでいた子供たちを、大人たちが呼びます。いよいよお祭りが始まるのです。『星送りの祭り』が。




 星 星 昇れ お空に帰れ


 星 星 昇れ お空に帰れ


 闇を照らして 春を呼べ


 雲を散らして 春を呼べ


 空から降った かけらを丸め


 空から落ちた かけらを握れ


 星 星 帰れ お空に昇れ


 星 星 帰れ お空に昇れ


 雪にはならぬ お前は星だ


 星になれなれ 雪にはならぬ


 空より落ちた 星を送らん


 空より散った 星を送らん




 子供たちの無邪気な、大人たちの切実な声が、今だやまない雪の降る空にひびきわたります。その声とともに、子供も大人も、積もった雪をぎゅっと丸めて、空に向かって思い切り投げるのです。もちろん、真上に投げてきたら、自分のところへ落ちてくるので、少し斜めに投げるのがコツです。戻ってさえこなければ、投げた雪は星になるのです。そうしてたくさんの星が空に輝けば……夜は短くなり、春の足音が聞こえてくるでしょう。




「あいてっ!」


 落ちてきた雪玉が、雪だるまに当たりました。雪だるまは思わず声をあげました。


「なんだよ、迷惑なお祭りだなぁ……。そんなことしたって、星が増えるはずないのに。こんなの迷信だってこと、雪だるまのおいらにもわかるのに、人間たちって、どうしてこんなバカなことばっかりするんだろう?」


 雪玉が、次から次へと落ちてきて、雪だるまはため息をつきました。


「まぁいいや、雪玉が当たったら、おいらもどんどん大きくなるんだし。春が来たら、おいらもとけてなくなっちゃう。まだまだ冬が続いてくれるといいのになぁ」


 そんなことを思っていると……。


「あいたっ!」


 雪だるまが、またしても声をあげました。


「また雪玉かなぁ? あれっ、違うぞ、これは……」


 雪だるまのお腹に、きらきら輝く石のようなものが刺さっています。雪玉とは違って、それはなんとも温かくて、雪だるまの胸にじんわりとぬくもりが広がっていきます。


「あぁ……これは……」


 雪だるまのからだは、どんどんとけてなくなっていきました。ですが、それは雪だるまが思っていたような、苦しいことや悲しいことではありませんでした。むしろ、胸からからだじゅうに、優しい思いが広がって、幸せへと変わっていくような……そんな素敵な温かさでした。


 雪だるまはとうとう、完全にとけてなくなってしまいました。お腹に刺さっていた、輝く星は、わずかに大きくなっているようです。と、そのとき、強い風が吹いてきました。


「春一番だ!」


 村人たちの、喜びの声が風にかき消されていきます。それと同時に、雪だるまの星が、そして村人たちが投げた星の赤ん坊たちを、春一番がゆりかごのように抱いて、空へ空へと昇っていったのです。春の訪れを祝う、村人たちの声がどんどん遠くなっていきました。


 おかえりなさい おかえりなさい


 おかえりなさい おかえりなさい


 さぁさぁ夜空を ともしなさい


 さぁさぁ夜空を 彩りなさい


 今度は二度と 落ちないように


 今度は二度と 散らないように


 それでももしも 落ちたのならば


 それでももしも 散ったのならば


 も一度空へと おかえししよう


 も一度空へと おかえししよう


 おかえりなさい おかえりなさい


 おかえりなさい おかえりなさい




 雪だるまだった、星のかけらたちは、たくさんの歌声とともに、再び夜空を彩るのでした。

お読みくださいましてありがとうございます(^^♪

ご意見、ご感想などお待ちしております(*^_^*)

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― 新着の感想 ―
[一言] 「冬童話2022」から拝読させていただきました。 雪が空に昇って星になり春が訪れるというストーリーが良いのです。
[一言] 宮沢賢治風ですね。 途中で挿入された歌が素敵でした。
2021/12/29 17:13 退会済み
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