08.聞きたいけれど聞かない
唇を重ねてから、まともに推しの顔が見れなくなりました…。
どうしたら正解ですか?
わかりません…喪女にはハードルが高いです。
「おはよう、サエ殿」
推しことジェイド様の笑顔は眩しいです。
「お、おはよう…ございます」
どうしても昨夜のことが頭から離れない。
恐らく顔は真っ赤だと思う。
は-…落ち着け私。
「今日もありがとう、ございます」
用意された朝食を前にお礼を述べる。
でないと間が持たない。
『………キスしても落ちない口紅』
テレビから不意に聞こえた宣伝文句。
「ぐふっ!」
反射的に口付けた珈琲が気管支に入り込み盛大に咳き込む。
昨日に続き、2日目だ。
ジェイド様の前で恥ずかしい。
「サエ殿!大丈夫か?」
彼の伸ばし掛けた手は宙で行き場を失う。
あ、そうなんだ…ジェイド様も昨日のこと気にしてたんだ。
私だけじゃなかった。
「大丈夫ですよ」
行き場を失った彼の手を取り、微笑む。
「サエ殿…」
「昨日のこと、聞きたい気もします。けど、知るのが怖いので…聞く勇気が持てたら伺っても良いですか?あと、気まずいままは嫌なんです。折角一緒に住んでいるのに…悲しいです。だから、だから…」
「あぁ、気にするな…とは言えないが、前のように振る舞おう」
握り返される手が心地良い。
「はい、約束ですよ」
手を取り合い、私達は微笑み合った。
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「何かご機嫌だね」
同期の浅井さんから話し掛けられる。
「え?そ、そうですか?」
「うん、今にも鼻歌を歌い出しそう」
そう言われぎくりとする。
「彼氏でも出来た?」
ボンッと効果音が出そうな位真っ赤になったと思う。
ジェイド様のことを思い出し、更には昨夜のこともしっかり思い出したのだから。
「そ、そんな彼氏だなんて」
両手をぶんぶん振り否定する。
推しは推し、しっかりしなきゃ。
「ふ~ん、ま…大して良いアドバイスは出来ないけど、何かあったら相談してね」
「はい、ありがとうございます」
そんなに顔に出てたんだ…気をつけなきゃ。
火照る頬を押さえ、自分の席に戻る浅井さんを見送る。
平常心、平常心。
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「おかえり」
私が声を掛ける前にジェイド様から声が掛かる。
「ただいま戻りました」
お互いに微笑む。
「さぁ、ご飯にしよう。着替えておいで」
「はい」
ジェイド様に促され部屋着に着替える。
「さ、どうぞ?」
エスコートされ、自分の指定席に座る。
向かいに座るジェイド様。
もう見慣れた光景。
「「いただきます」」
用意された食事をしながら、たわいない話をする。
この優しい空気が好き。
ジェイド様が好き。
ゲームをしてたときから。
ううん、そのときよりももっと好き。
ずっとこの幸せが続きますように。