07.疑似新婚生活
「ジェイド、さん?今なんて?」
「家の中でやらねばならぬことを教えてくれないか?」
永崎紗英、人生最高に困惑しております。
「常々考えていたのだ。外で仕事もして、帰宅後に家の中のことをしているサエ殿を見て、自分に何かできることはないか?、と」
「気になさらないでください。それにお見受けするに、男性が家の中のことをするという慣習は無いように思いますが…」
「確かにそうなのだが…」
考え込むジェイド様。
「こちらの男性は、家の中のことをするのであろう?」
「えぇ…まぁ…。一人暮らしをしたりしておりますし…」
「であれば私も見習わなければと思っていたのだ」
推しにやらせるくらいなら、全て私がやりますとも!
とは言えない雰囲気。
あれ?そういえば…。
「騎士様のお仕事には遠征はありますか?そのときの食事や洗濯は騎士様がされるのですよね?」
そのスチル見たさに騎士舎へ通い詰めたの、いい思い出。
「よく知っているな。見習いの期間に諸先輩方から教えを請うのが伝統となっているんだ」
生で見れた…″伝統なんだ″のスチル。
ゲ-ムじゃないんだけど。
「では、お願いしてもよろしいでしょうか?」
「あぁ、任せてくれ」
はぅ…笑顔で答えてくれるジェイド様。
またしっかりと心臓を捧げました、尊い。
翌日。
「ただいま戻りました」
自宅の玄関を開けると、良い香りが鼻を擽る。
「おかえり、サエ殿。すぐにご飯にできるが、どうする?」
は、破壊力が半端なさ過ぎる。
キッチンに立つジェイド様も素敵過ぎます。
「着替えてきますので、お夕飯に致しましょう」
部屋着に着替え、戻ると完璧すぎる配膳が既になされていた。
そつなく何でもこなせる設定強すぎる。
「わぁ~」
「たいした物ではないが…」
促され座る。
「「いただきます」」
謙遜することのない料理の数々。
「美味しい!」
寧ろ私よりお出来になっている。
ハイスペックイケメン最高です。
「?何か?」
自分を見つめる推しの視線に気付く。
「いや、こういうのも良いな…と思って」
「こういうの?」
「私の料理を美味しく食べてくれる人がいる生活も存外悪くはないのだな…」
目を細めて何かを考えているようなジェイド様。
「部下に聞いた新婚生活のようだ」
「ごふっ!?」
思いもよらない単語に驚き、咽せてしまう。
「大丈夫か?」
お茶を受け取り飲み干す。
その間ずっと背中を擦ってくれる。
「ありがとうございます」
気付けば間近に推しの顔。
初めて会話した日のように近い距離。
ドキン…ドキン…。
煩い心臓の音。
バレちゃうでしょ!
「っ…」
触れた唇。
1度離れ、再び触れ合う。
「んぅ…」
息継ぎで開いた唇から侵入する何か。
熱くて熱くて何も考えられなくなる。
苦しくて藻掻いた拍子に落ちた食器。
「すまない、洗ってくる」
先に我に返ったジェイド様の背中を眺める。
自分の唇に触れてみる。
夢じゃない。
この日は気まずく寝るまで話はできなかった。