06.推しに捧げるのは心臓だけではない
推しことジェイド様と電車に揺られ繁華街。
今日はジェイド様のお召し物を購入しに来ました。
鎧も格好良いですし、咄嗟に買ったスウェットも良かったんです。
でも、推しが居たらファッションショーをしたいのは、万人共通だと思います。
「こちらなんてどうでしょう?」
「私はこういうものに疎くて、いつも執事任せなんだ。サエ殿に任せるよ」
信頼された表情で言われると舞い上がってしまいます。
「お任せください。必ずやこの任務を遂行してみせます」
どん…と胸を強く叩きすぎて咽せるなんてお約束を噛まして、恥ずかしい思いをしながら目につく衣類を手に取る。
ジェイド様に宛てながら、あぁでもないこうでもないと唸る。
ふとジェイド様が笑っているように見えて…。
「どうかされました?」
「楽しそうだなと思って」
「はい、とっても愉しいです」
自分史上一番のテンションかもしれない。
愉しい…愉しすぎる!
ジャケットにカットソ-、スラックスってオーソドックスが一番素敵だった。
カットソ-とスラックスを数枚とジャケットを2枚購入した。
下着等も少し追加し、靴も選ぶ。
推しに貢げる幸せ。
あ-、最高です。
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「サエ殿、こんなに購入したが大丈夫なのか?」
休憩で入ったカフェ。
そこでジェイド様が聞いてきた。
「はい、貯えはありますので大丈夫ですよ」
間近で推しに貢げる機会があるのに、そんなチャンスは逃せないです。
貢げるなら破産してもいい…!
……………なんて言えるわけもなく。
当たり障りない回答になる。
それにしても、やっぱりジェイド様は目を引く美形だと思う。
先程から周りの女の子の熱い視線が彼に注がれる。
私には厳しい(え?あれが連れ合い?)っていう視線も注がれるけど。
気にしないように珈琲に口を付ける。
「あの~、もし良ければ私達とご一緒しませんか?」
おぉう、積極的な女の子達。
凄いなぁ…。
「私に言っているのか?」
きょとんとするジェイド様。
か、可愛らしい。
「はい、お兄さん格好良いから。この人と一緒にいても釣り合い取れないんだもん」
こちらを一弊し、くすくすと笑う。
地味なのは承知の上だけど、あからさまな言い方に少し傷付く。
俯く私の手を握り。
「私の連れ合いを侮辱するような者と一緒に行くような薄情者に見えるのか?」
声色だけで怒りが伝わってくる。
「え?だって、ねぇ」
女の子達はお互いに顔を見合わせる。
「連れ合いを侮辱され不愉快だ。何処かに行ってくれないか?」
ジェイド様の強めの語気に女の子達はそそくさと逃げ出しいなくなった。
後に残ったのは微妙な空気のみ。
「サエ殿、もう帰ろう」
ジェイド様から差し出された手を握りかえし、私達はカフェを後にした。
私はげんきんだと思う。
それだけでさっきのいやな気持ちが吹き飛んだのだから。