03.職場の話
『そういえば、自己紹介がまだだったな。私はライティアス皇国、第一皇子付き騎士 ジェイド・ファーメル・クラウディアだ。よろしく頼む』
えぇ、存じ上げております。
何度そのボイスを拝むため、ゲームをししたことか。
早くも2個目の心臓を捧げた私は、昨日の自己紹介を思い返していた。
一先ず、起きてきたジェイド様に朝食をお出しし、お昼ご飯の用意やその温め方をレクチャーしてから出勤する。
今日帰ってから話し合う予定にした。
でなければ私の心臓が持たないから。
外出は控えていただくよう念を押したし、大丈夫。
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「はぁ………早く帰りたい」
気が重くてぼそりと呟く。
「あ、永崎さん。冴島さんのこと聞いた?」
同期の浅井菜々さんが声をかけてくる。
「冴島さんのこと?何ですか?」
「交通事故で右脚骨折の重傷で入院したんだけど、何故か意識不明でしばらく復帰は無理みたい」
「え!?何ですか、それ………」
骨折なのに意識不明?冴島さん大丈夫かな?
「それでね、何かお見舞いに行くって話になって」
浅井さんの話を聞く。
「お見舞いに行くのはお邪魔になりませんか?意識不明なのに…」
「そうだよね、でも…」
「でも?」
あれよ、あれと言わんばかりの浅井さんの視線の先。
やたらと張り切る湯波馨さんがいらっしゃった。
「私は遠慮するって行ってきます」
「待って、私も行くから」
二人して湯波さんにお見舞いは辞退することを伝えた。
「そう?仕方ないわね~、私が代表で行ってくるわ」
にこにこと嬉しそうな湯波さん。
「はい、よろしくお願いします」
「助かったよ、ありがとね」
何故かお礼を言われるが、全く身に覚えがない。
きょとんとする私に、浅井さんはこっそり教えてくれた。
「湯波さん、冴島さんのこと狙ってるの。入社以来ずっと」
「え!?」
「有名な話よ。知らない方が驚きだわ」
「あはははは…」
苦笑いしかできない私。
「あまりそういうの興味なくて」
「ま、いいわ。面倒なことに絡まれなくて助かったし?湯波さんには気を付けてね」
「はい」
お辞儀をし、浅井さんを見送る。
さぁて、お仕事頑張りますか。
私はこのできことのせいで、推し ジェイド様のことをすっかり忘れて帰宅し、また心臓を捧げてしまったことはまた別の話。