シーサイドタウン
美しい海と広い大地。ここオーストラリアには、南の勢力が居た。
観光に力を入れ、比較的平和な都市だったシーサイドタウン。
俺も何回か来た事があった。初めては確か、少ない金を片手にピース・シティを逃げ出した時だったか。
ここでも俺は、あまり良い扱いは受けなかった。
サポロイド保護団体っていう慈善団体が、お節介にも保護して仕事を探してくれたんだが……平和ボケしてるから仕事先でイジめられるなんて想定もしてなかったんだ。
まぁ、ピース・シティでの扱い程じゃないがひどいもんだった。このクソ暑い中水も飲まずに日向でビーチのライフセーバーをやらされて、何度か熱中症で倒れた経験がある。
しかし、そんな事も思い出の中の物だ。
少し砂を手にとってみる。
ここの売りでもあった、白くサラサラな砂。指の隙間から流れ落ち、虚しくも飛び散った瓦礫の破片だけが手に残った。
「ひでぇ有様だ」
後ろを振り返れば廃墟。このビーチと共にシーサイドタウンを形作っていた物だ。
この瓦礫は、あの町から飛んできた物なのだろう。沿岸部の被害は比較的少ないが、建物として再利用出来るレベルではない。
多くの人間にひと夏の思い出を提供してきたシーサイドタウン。今や全盛期の姿はなく、静けさと喪失感だけが漂う。
人の賑わう声や混雑した道路のクラクションは波の音に置き換わり、手付かずの自然だった頃に戻ったとも言えるかも知れない。
しかし、やはりそうではない。この瓦礫が残っているうちは、本来の姿とは言えないだろう。
瓦礫は波に転がされ、削れ、いつかは砂になる。その過程は、気が遠くなる程に永いのだ。
ただの破壊と殺戮。残る物は瓦礫と虚しさ。こんな事をして、一体何がしたかったのか。俺の疑問はそれに尽きる。
ヴラドは富や力が一箇所に固まった崩して平等な世界を作りたかったらしいが、このやり方は正しかったとは思えない。これはただの無差別破壊と殺戮だ。
ここに住んでいた人間だって罪の無い人間ではなかった。人間なら誰しも罪を抱えるものだからな。
だが、非好戦的な人間をも巻き込んでしまうのはおかしな話だ。日常が突然崩れ、火に包まれる絶望を感じる必要のない人間達なのだから。
この破壊の先に、何を生み出そうとしていたのだろうか。本当に平和を望んでいたのだろうか。
もっと別な意味があったと思いたい。そうでないと、俺は人間という生命体の愚かさに絶望してしまいそうだ。
まぁ、元々期待はしていなかったが。
とりあえず、ヴラドが何を思い、争いの先に何を求めていたのかが知りたい。既にヴラドは亡き者だが、それを知る術はいくらか残っている筈だ。
シーサイドタウンでも比較的ダメージの少ない……いや、補修して使用された建造物群を探す。そこがきっと、ピース・シティ軍の駐屯地だった場所だろう。
「ここだな」
恐らく瓦礫や廃墟から使える物を集めて作られたであろう、ツギハギな外壁。その中心には割と綺麗めな建造物があるから、きっとこれは、使える建物に更に増築した跡なのだろう。
障害物を除け、中へと踏み込む。今にも崩れそうな天井が不安だ。
ここで倒壊でもしたら……まぁ、生きてはいても餓死を待つしかないだろうな。壊れかけの建物に潰されるなんて、死者に魂を奪われるようで嫌だ。ちゃっちゃと調べてしまおう。
PC類が多く並べられた司令室。電気が無い為画面も黒い板に過ぎないが、持ち運び型のメモリーはいくつか残されているようだ。
早速それらを持ち帰り、LBのコンピューターで読み取る。
「これは……ヴラドの、計画書?」
ビンゴ。良さげな物が一発で手に入った。
「どれどれ……」
シーサイドタウン方面軍司令204へ。
平和を求める我々の第一目標は「平和主義者の選別」になる。
まず悟られないよう行政機関の最高責任者に接近し、脅迫を行う。その際、全体放送で光景を市民に見せる事を忘れるな。
もし従った場合、全市民の避難を行った上でシーサイドタウンを破壊する。その後、市民の選別を行う。
万が一従わなかった場合、その時点で無差別破壊、バーサーカー・プログラムを開始しろ。反乱分子は生かしてはおけない。
今回、強硬手段に踏み込みはしたが、あくまで我々は穏便に事を済ませたい。そこを念頭に置いて作戦を実行するように。
「なるほどねぇ」
自分に異を唱える人間は許さない。しかし、基本的に平和な方を選ぶ。
かなり尖ってはいるが、目標はハッキリとしていたのか。
単なる悪意が原動力ではない行動。一部の人間は、共感すらしたかも知れない。
まぁ敵は多かっただろうがな。人殺しなんて、理由が何であれ誰から見ても悪の行為だ。
俺だって大量殺戮が良いとは思わない。意味があったとして、別な方法を選ぶべきなのは絶対だからな。
それにも関わらずこの行動をとった理由。残念ながら、それを語る物はここには残っていなさそうだ。
この資料には最低限の情報しか載っていない、ここの司令官にすらその理由を教える気は無かったらしい。
なら仕方ない、別な町で手掛かりを探すとしよう。とりあえず今日はここで泊まって、明日出発だ。
ノマに貰った食糧をいただきながら、寂しい夜を過ごすのだった。