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死を糧に

 バルチャーとしての仕事は久しぶりだ。


 なんたって、ここ数ヶ月は大きな戦争をやっていたと聞く。あの荒野だって、その影響でああなってしまったのだ。


 戦争の真っ最中や終結直後に戦場跡に行くのは、巻き添えになったり同業者とのカチ合いになったりと危険だ。


 だから、敢えて熱りが冷めるのを待つ。バルチャーなんて、ちょっと取り分が残っていれば十分。欲張っていい立場じゃない。なんたって、死肉を食って生きてるようなもんだからな。


 戦争の間、俺は洞窟に身を隠していた。サポロイドだからと徴兵されたくないので、町には近付かなかったのだ。


「……は?」


 それ程長い期間では無かった筈。しかし、その間で世界は、とてつもない変貌を遂げたようだ。


 なんだ、この大穴は。ピース・シティはどこに消えたんだ。何がどうなったら、あの大都市が消えると言うんだ。


 開いた口が塞がらない。力が抜けきって、手で抑えても開いてしまう。


 俺の常識が間違っていなければ、というか絶対間違っていないが、都市は一瞬で無くなる物ではない。それとも何か、そういう機能が元々有って、クイズに間違って穴の中に没収されたのか。それこそ不思議発見ってもんだ。


 一体何があったんだ。これが例の戦争のよる物ならば、相当凄惨な戦争だったんだろう。心底、関わらなくて良かったと思う。なんたって町が吹っ飛ぶようなバカ騒ぎだ、下手したら俺も吹っ飛んでただろうからな。


 ……とりあえず、問題を確認しよう。


 今俺の手元には金はほとんど無い。食糧は僅かで、移動手段はこの足だけ。


 はっきり言ってこのままじゃ死ぬ。向こうに見える山で狩猟採集するのもいいが、危険度が高過ぎるから最低限で済まし、別な方法を考えなければならない。


 もしここから、西のディザートタウンや北のフリージドベースに行くとなれば、生身で泳ぐ訳にはいかないから海越えの手段が必要になる。旧日本は海に浮かぶ列島、ユーラシア大陸まで泳ぐとなれば遠泳では済まないのだ。


 ああ、渡り鳥が羨ましい。せめて俺も、羽を持って生まれてくればよかった。ほら、獣人型サポロイドみたいな尖った趣味の人間が好む、動物の特長を持った奴。


 残念ながら雲は、その時の状況……つまり、風に流されなきゃ何も出来ない。


 だが、時には自分から変わる事も大事だ。そして、それが今。


 しかし、LMやホバーモービルを手に入れる手段なんて無い。残念ながら、買える場所が無い。


 金の意味が無いから、さっきまではオタカラだった鉄クズ達も今やただの鉄クズ。投げて遊ぶくらいしか使い道が無い。


「……クソッ!」


 思い通りにならない現状を嘆き、思い切り鉄クズを投げ捨てる。こんな事しても無駄なのは分かってるが、こうしないと溜まったストレスを吐き出せないのだ。


 ああ忌々しい。散々嫌っていた人間達が居ないと、自由を奪われるなんて。皮肉な事だ、結局誰かに関わり続けないと生きて行く事も出来ないなんて。


 人間と関わるなんて死んでもゴメンだ。いや、死にたくはないから少しは関わるが。


 まあアレだ。俺が言う関わるってのは、こう……お互いにお互いを気遣い合うみたいな、長期的な奴の事。短期間なら別にいいんだ。


 だが、ただ嘆いていても仕方がない。落ち着いたらどうするか考えるとしよう。


 必要な物は分かっている。移動手段と、食糧だ。


 幸いここら辺には激しい戦争の跡、オタカラの山がある。もしかしたらパーツを掻き集めて、動くホバーモービルくらい作れるかもしれない。


 それに、向こうに見える山にはある程度自然もある。危険だが動物を狩って肉でも手に入れれば、飯には困らないだろう。


 つまり、今やるべき事はオタカラ探しと食糧確保。そうと決まれば、後は行動に移るとしよう。気まぐれな雲の決意なんて、いつ変わるか分からないからな。


 まずは状態の良い機体探し。良い機体が手に入るか否か、ここで作業が一日で終わるか一週間以上掛かるかが決まる。極力、損傷が少ない物を手に入れたい。


「それにしても……よく見りゃエグい数転がってるな」


 消滅したピース・シティ以外にも、戦争の規模を物語る傷跡は山程あるようだ。


 LM・LB問わず、石コロみたいにあちこちに転がっている。


 LBの残骸……一体どんな兵器を使えば、こんな芸当が出来ると言うんだ。それが指で数えられない位あるのだから恐ろしい。


 まぁ、今はLBはいい。アレは人の手じゃ直せないからな。


 十人十色、多種多様な死に様を遂げた亡骸達。粉々に打ち砕かれた物や的確にコックピットを貫かれた物、脚部をやられて乗り捨てられた物。お陰で組み合わせは自由自在。


 俺としては、コックピットを綺麗に貫かれた物と脚部を壊された物が好ましい。それに加えて、作業用に少しでも動くのがあれば完璧だ。


 それも、探してみれば意外とあるもんで。もう修理は出来ないが一日位は動く物、プラズマライフルか何かでパイロットを正確に撃ち抜かれた物、脚部をやられて放置された物が意外と楽に見つかった。


「やっぱ俺って、やれば出来る男だぜ」


 こうして一人で喜怒哀楽を楽しむのも、永遠に続く一人旅では大事な事。感情を失った心、流れを失った風は、淀んで腐敗する物だ。


 早速ニ機の上半身と下半身を分解する。LMは、破損時のパーツ交換も考慮して分解しやすく出来ているのだ。


 更に動く一機に乗り込み、作業モードに切り替える。


 ギギギと軋む機体を立たせ、分解したニ機の上半身と下半身を接合、後はハンドシグナルで遠隔操作し微調整。


「オーライオーライ」


 それからは手作業で配線を接続し、最後に腰部のロック機構で上半身と下半身を固定すれば大体完成。後は足りないパーツを探しては取り付け、細部を直せばいい。


 そして最終的な機能チェックと修理。最も整備士としての腕が問われる工程だ。


 電源を入れ、コックピットの異常表示を確認する。


 転倒の衝撃で壊れた基盤、格闘戦の高負荷で破裂し油が漏れたたシリンダー、雨ざらしで錆びた関節。ここまでだってかなり手間が掛かったというのに、課題はまだまだ山盛りだ。


 ため息をつきたくなるが、そこは我慢。多分、我慢しなきゃやる気が失せちまうだろう。


 パーツを交換し、丁寧に錆磨き。そこら辺に転がっていた潤滑油で関節部の摩擦を減らし、最後に動かして再チェック。


 中々の仕上がりだ。滑らかな関節の動きは、まるで新品の様。コンピュータも滞り無く情報処理を行っている。


 そんな風に各部をチェックしては修理を繰り返しているうちに、気付けば異常を示す表示は一つも見えなくなっていた。


 あっという間に時間は過ぎ、日は傾いている。山が光を飲み込むように、空は黒く染まり始めていた。


 こうなってしまっては仕方が無い。諦めて、残り少ない缶詰めで食い繋ぐのだった。

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