雲のように生きる
きままに書いていきます。
どこまでも続く荒野。
せっかく芽吹いた草木も焼かれ、踏み荒らされ、美しい緑は消え失せている。
それでもちらほらと根気強く根を張っている物もあるというのだから、植物とはすごい物だ。
「こりゃあ、ひでえ有り様だな」
俺は名も無い旅人。何者でもなければ、何者になる気も無い。故に、名乗ろうとも思わない。
まぁ、便宜上名乗っておくと、「リーダム」って名前だ。
誰にも縛られず、空に浮かぶ雲のように自由に。この雑草のように根を張る事はしない。
場所に縛られず、吹き抜ける風のように颯爽と。留まる事を知らない。
バイクや自動車なんて無い。自分の足で、行きたい所へどこまでも。疲れたら陰で休み、空を見上げる。疲れが取れたら、前を向いて歩く。
時々下を向く事もある。それは、そこら中に転がるオタカラを拾う時だ。
俺はオタカラを拾って売って、その金で日々を過ごしている。いわゆる"バルチャー"って奴だ。
身分を明かさず誰でも出来る。俺みたいなサポロイドでも、見た目はまんま人間だから簡単に金を稼げる。どうだ、皆もやってみないか? 身内とか故郷とか、全部捨てて自由に生きよう。
ああ、自由とは素晴らしい。人間に指図され蔑まれる生活を捨て、俺は今幸せだ。
……俺は、サポロイドに生まれた自分の運命を呪っている。散々こき使われて、挙げ句の果てに捨てられる。そんなクソみたいな運命をだ。
だから今度は俺が捨ててやった。それだけの事だ。
まぁそうやって、後ろと横以外は見て生きてる。後悔なんてしないし、横を見ても誰も居ないからな。
「今日も大漁の予感だな」
灼け、溶け、ボコボコにひしゃげた装甲。哀愁漂うLMの亡骸を見てニヤつく。
こんな鉄クズ、弱者の敗北の跡が何になるのか、普通は分からないだろう。
しかし、これがオタカラボックスなんだ。
そう、オタカラというのは戦場跡に転がる廃品の事。ここから状態の良いパーツを選別して、ジャンク屋やストレイに売る訳だ。
皮肉な事に、ここで人間にこき使われてた経験が生きちまう。忌々しい過去に、今日も生かされている。
俺は工場で働かされていた。毎日毎日朝早く起きて生産ラインを動かし、それは夜遅くまで続く。んで、終わったら次の奴に引き継ぐ。
引き継ぎの時の次の奴の顔といったら、そりゃあ「僕は不幸なサポロイドですぅ〜」って感じの顔だった。同情しちまうぜ全く。
だが、ある物は何でも使って生きるのが俺さ。
あのサポロイドと俺の違いは、そこで終わるか現状を変えるか。俺は作業帽を投げ捨て、成功した。
組み立ての知識を生かしてパーツを分解、動きそうな物を手当たり次第にカバンに詰めていく。
「……お?」
そろそろ機体のコックピットを漁ろうと思ったその時、歪んだコックピットハッチの隙間から、何かが垂れ下がっているのが見えた。
……まぁこういう場合、出てるもんといえば一つ。人間の腕だ。
「悪いな、墓暴きさせてもらうぜ」
この機体のパイロットは、どうやらストレイだったようだ。
普通、正規軍なら機体は回収するだろうし、パイロットの生死に関わらず連れ出す。
だが、放浪者の生死なんて誰も気にしない。供養すらされないのが普通だ。
だったら、その死を無駄にしないようにしてやるのが供養ってもんだ。せめてこうやって、機体のパーツを俺の糧にしてやるのがな。
だが、俺には一つの流儀がある。
それは、死者が眠っている場合、コックピットは漁らないという事だ。
死んでも人とは関わらない、それが俺のやり方なんだ。つっても、ジャンク屋とか宿屋の受け付けとかする時には若干関わっちまうし、他人を利用する時は大抵関わっちまうがな。
まぁ、自由に生きるにゃ拘りも時々捨てなきゃいけないって事だ。雲は形を留めないからな。
「こんなもんか。今日は大漁だな」
カバン一杯のオタカラがキンキラキンの金になると考えると、大人げないがウキウキしてしまう。
さて、そろそろ日も暮れてきたし。ちゃっちゃと売っ払って宿でも探すとしようか。……死肉を漁って手に入れた物なんて、ずっと手元に置きたくはないからな。
重たいカバンを肩に掛け、ピース・シティに向かうのだった。