第1話 王宮追放
「さっさと歩け」
兵士にせっつかれて、歩く私は、自分の感情が出てしまわないように、必死にこらえていた。
歩くのは王宮の廊下。
ここは、今まで私が住んでいた所だけれど、もう戻ってくる事はないだろう。
心の中でさようなら、と告げてみた。
悲しみはない。名残惜しさも。
あるのは解放感と、自由への期待だけだ。
やがて、敷地の外と中を隔てている門のところまでやってきた。
私をここまで連れてきた兵士達は「これからみじめったらしく過ごすんだな」と言って、私の背中を突き飛ばす。
倒れてなんてやるものか。
やっと掴み取った、「新しい世界」への第一歩なのだから。
つんのめるようにして、だけどそれ以上姿勢を崩すことなく、踏み出した一歩。
私はとうとう、こらえられなくなった。
「あははっこれでやっと自由だわ!」
真っ青な空と、真っ赤な太陽。
暖かい日の光がこれほど、美しいものだったなんて。
両手を広げて叫び声をあげる私に、背後の兵士は何を思ったのだろうか。
気にする事はない。
どうせ気が触れたとでも思われてるのだろう。
私が今考えるべき事は、他にある。
袖の中に隠し持っていた宝石の感触を確かめながら、私はつぶやいた。
「さて、ザックス達の方はうまくいっているかしら」