五話 殺しの対象
大国、アルクド王国。人や物資の数は他国より一回りは多い、文字通りの大国だ。文明の発達したこの国は他国との交流も盛んで、人の出入りも多い。俺の知る限りでも、確かにこの国の賑わいは他国とは全然違う。
……このアルクド王国は、今アルクド王国女王が国を納めている。国を納めるといえば国王のイメージだが、それには理由がある。
……女王には、現在王位継承権を持つ、六人もの子供がいる。つまりは王女だ。それが、第一王女から第六王女までの、六人の継承者たち。国のトップ、つまり女王になれるのは一人しかいない。
本来、国を背負う役目を担うなど、長男が負うべき役目……いや、十字架と言った方がいいか。しかし、現在の国王と女王には、跡継ぎとなる男が生まれなかった。生まれてくるのは、次々と女ばかり。
そしてとうとう、国王が病に伏せた。彼はまだ死んではいないが、次の王位を継承すべき人物を指定する前に植物状態となった。発展したこの国の『魔法』でも治せない難病。
生まれた順で決めるわけにもいかない。六人全員が女……よって、女王は六人の姉妹に命じた。次の王位継承権を六人平等に与える。各々がそれぞれのやり方で、国民の支持を集めろ……と。
「なるほど、詳細に載っている」
資料に目を通し、現状を把握。俺が知っていたのは、せいぜいが六人姉妹の王女がいる、ということくらいだ。国の情勢にはあまり興味もないし、仕事でここを離れることも多かったからな。
この資料の正確さを疑ってはいない。渡される資料に書いてあることは、すべて正確だ。ここに書いてあることから読み取れることは、六姉妹……いや第四王女を除いた五人の誰かが、国民の支持を得るのとは別に、ライバルを蹴落とす工作を行っているということ。
それを卑怯と言うかは、俺は関与しない。ただ、俺は卑怯とは思わない。手段はともかく、他人を蹴落としてのし上がろうとするのは、人間ならば当然であろう。その『人殺し』という手段を実行に移す肝の座った依頼主に、脱帽する勢いだ
「……ふぅ」
一度目を通した資料。これに限らず、一度読んだものは燃やして消し去ってしまうのが俺のやり方だ。一度読めば、必要な情報はすべて頭に入る。それに、資料を残していてはあとあと面倒だからな。
火はいい。すべての証拠を、跡形もなく消し去ってくれる。加えて、証拠隠滅のための火は、いろんなところで灯っている。なにせ、生活のためには必要不可欠なものだ。
懐から、『魔法具』を取り出し、それを利用して火をつける。紙は、簡単に燃えていく。
「……」
家にたどり着き、中に入る。家とは言っても、最低限の生活ができる手入れしかされていない。家というより拠点と言う方がいいか。この国で活動する際の、拠点。
なにせ、今度の仕事はこれまでとは違う。一国の王女を暗殺するなど、この十余年の生活でも経験のなかったことだ。しっかりと段取りを立てる必要がある。