四話 アルクド王国第四王女
「アルクド王国第四王女、ティーラ・テル・アルクド……か』
貰った資料と標的の容姿が映った紙、それらを見ながら呟く。
現在、俺はあの地下室から出て、帰路についているところだ。デルビートに渡されたこの資料に書いてあるのは、今一人ぼやいた通り。
アルクド王国という国……つまり、この国だ。治安がいいと評判で、さらには文明の発展した国として他国から一目置かれている。。
まあ治安がいいというのも、それは表の話。現に、何度もこの国で誰かを殺してくれ、という依頼を受ける。どんなにきれいな国だって、裏ではどこかの誰かの黒い陰謀が渦巻いているものだ。
それを、十余年で腐るほど見てきた。だが……
「まさかの、王族とはな」
殺しの対象と指定されたのは、この国の第四王女、その名は何度も頭の中で繰り返した。ティーラ・テル・アルクド。その名くらいは、さすがに俺も知っている。なにせ王族だ。
資料と共に渡された紙には、第四王女の姿が映っている。そこにある風景、人を念写する『魔法』でも使ったのだろうか、ずいぶんと気合いが入っている。いつもなら容姿を細かく書いた資料程度だというのに。
見たところ、14、5の少女ってところか。だが、まだ幼いながらも紙越しでもわかる気品と強さが見てとれた。
さらに、目を引くのがその容姿。その瞳は、まるで宝石でも埋め込んであるかのような輝きを見せ、赤く輝いていた。銀色に流れる髪は、腰まで伸びていて、紙越しでありながら輝いているようにすら感じる。
王女と言えど、少女。少女と言えど、王女。もしも王女なんて肩書きに生まれなければ、こうして命を狙われることもなかったのだろうと思うと、ほんの少し哀れに思う。
「少し、な」
所詮、こいつは殺しの対象……俺にとっては金づるだ。しかも、対象が王女なだけあって報酬もこれまでとは桁が違う。俄然やる気になろうものだ。
この、恨みなんか誰からも買ってませんと言わんばかりの顔……この世界は、きれいなもので溢れている。汚いものなんて存在しない。そんなことを本気で信じている目だ。
残念ながら、それは自身が殺しの対象に選ばれたことで、儚く崩れた。この世界は、どうしようもなく汚いのだ。そして汚いことを考える誰かが、殺しを考え依頼する。
第四王女が、ただの少女だったならば誰がこいつを殺そうとするのか、検討もつかない。だが第四王女が第四王女ゆえに、彼女を狙う者は限られる。
俺のようなフリーの暗殺者には、仕事が回ってきても依頼主が明かされることはない。依頼主から直接の接触がない限りは、か。直接組織に属していない人間に、依頼主を明かすことはできない……ということだ。
だからこれは、想像でしかない。王位継承権を我が物にするために、第四王女の身内が……彼女を殺そうとしている。ライバルを一人でも減らすために。もしかしたら、第四王女以外も狙って、別々の暗殺者に依頼したのかもしれないな。
「……難儀なものだ」