四十三話 心
……放たれた弾丸は、俺ではなく……第四王女に向かっていた。咄嗟のことに反応出来ず、気づいた時には……
「……かふっ」
胸元が赤く染まっていき、口から吐血する第四王女の姿があった。
「ティーラ!」
気づけば俺は、彼女の名前を呼びつつ彼女に駆け寄っていた。膝から崩れ落ち、そのまま倒れようとするが間一髪支える。
流れる血は止まらない。重力に逆らうことなく、流れる血は地面に垂れ、地面を赤黒く染めていく。
「おい、しっかりしろ!」
「……はは、心配、してくれるん……ですか……?」
弱々しく笑うその表情には、しかし生気を感じられない。胸元を貫いた弾丸は、どうやら貫通して体内には残っていないようだが……
胸元を手で押さえるが、それだけで血は止まらない。俺の手は、ただ赤く濡れているだけだ。
「おいおい、アン……なにをしてる。そいつはお前を……いや、そもそも人を心配するようなタマか? お前が」
「……デルビート」
「そいつの命を奪える場面で、奪わなかった。そいつが傷を負い、心配して駆け寄る……どうしちまったんだ、アン」
デルビートの言葉からは、本気で困惑しているのが伝わってくる。しかし、それにどう答えることもできない。
困惑しているのは、俺も同じだらだ。俺が、自分がどうしてこんなことをしているのか、自分でもわからない。
ただ、このように体が勝手に動く……という現象は、初めてのことではあった。触れた体から、伝わる第四王女の体温は、どんどん低くなっている。
たった一発の弾丸……しかし、その狙いは正確無比だ。暗殺の世界、その中でずっと生きてきたデルビート・ロスマンという男は、銃弾一つでも対象を殺しうる力を持っている。
「なんて面してやがる、お前。お前、それじゃまるで……」
「ぐっ……!」
デルビートがなにをしゃべるより、俺は次なる行動を移す。懐から投げナイフを取り出し、それをデルビートへと投げつける。
狙いは頭。いくらデルビートでも、頭に致命傷を受ければタダでは済まない……だが、軌道をまるで読んでいたかのように、ナイフは弾かれる。
こんな、ただ放っただけのもの……弾かれて、当然ではあるが。
「さすがはアンだ、まだ武器を隠し持ってるのか?」
「……」
「しかし、その必死な顔……初めて見たぜ、お前。それじゃ……まるで、心があるみたいじゃねぇか」
……! 心……? 俺に……?
「そんなはず……」
「死体に心なんてな、おかしな話だ。……俺ぁ見たくなかったぜ、アンのそんな顔は」
ドンッ……!
「……くふっ……!」
流れるような仕草で放たれた弾丸は、俺の胸を貫通する。血も通っていない死体のはずなのに、血が出るのはなぜだろうか。
そして、こんな状況でも第四王女を離さないのは、なぜだろうか。
「知ってるさ、お前はこの程度じゃ死なない。が、体の強度は人間と変わりはないからな……苦しめるのは、容易い」
その後、腕や足をも撃たれる。デルビートの奴、わざと致命傷にならない場所ばかり……
第四王女を捨てれば、逃げることは可能だ。肉体の強度は普通の人間と変わらないとはいえ、脚力など身体的な能力は普通の人間とは段違いだ。
デルビート相手でも、逃げ切ることだけを考えればそれは可能だろう。しかし……どうして、俺は……
「アル、フォード、さん……私のことは、もう、いいです、から……」
「……っ」
俺を殺した人間だ。捨てていけばいい。なのに……離したくないと思うのは、なんでだ。俺は……そう思っているのが、俺の心だと、いうのか? そんなもの、あるはずがないのに。
心、心か……その言葉を聞いた途端、不思議と徐々に、生前の記憶が鮮明になってくる。俺が死んだ、あの日。俺は確かに、この女を見かけた。あの場所に、第四王女はいた。
あの時この女の姿を見て……俺は……なんて、思ったんだっけ……




