三十八話 殺し合い
「うそだろ……」
刃を、手で受け止める。それも、刃を掴みとるのではなく、手のひらに刺して無理やり動きを止める。それが正気の沙汰でないことは、俺にもわかる。
俺は死ぬことのない死者とはいえ、痛みは感じる。だからこそ、その行為がどれほどの痛みを伴うのか、わかるつもりだ。
暗殺者というのは、正気ではいられない。その点で言えば、おかしいことはないのだが……人として、どうかという問題だ。
「つーかまえた」
「!」
まさかこんな、自身の体を犠牲にこちらの動きを止める行動にでるとは思いもしなかった……とっさに離れようとするが、その前に腹部を蹴られる。
重い、一撃だ。短刀を掴んでいた手を離してしまい、後ろに下がる。デルビートは、手のひらに突き刺さった短刀を抜き取り、それを自らの得物に加え、俺に襲いかかる。
元々デルビートが持っていたものと合わせて、二刀。連擊を寸前でかわしていくが、徐々に頬や体へと傷がつけられていく。
傷口からは、赤い血が、流れ出る。
「不思議だよなぁ、死んでるのに赤い血が通ってるっていうのは……未だに、謎だよ」
「ちっ……」
付かず離れず……その切っ先が致命傷になることはないが、避けきることもできない。それどころか、どんどん追い詰められてさえいっている。
だが俺も、ただやられてばかりではない……!
「おっ……」
腕に走る、痛み。先ほどのデルビートと同じように、刃を身を持って受け止める。痛みが走るが、普通に戦ってはこの男には勝てない。
片方の短刀は封じた。もう片方を隙をついて蹴り飛ばし、得物をなくす。不敵に笑うその顔に……頭突きを、おみまいする。
「ってて……この、石頭!」
「武器の一つなんで」
暗殺者というのは、得物がないときや、相手が魔法を使うとき……様々なシチュエーションが想定される。そのため、すべてにおいて鍛えておく必要がある。なににしても、武器が増えるのは損はない。
それは、腕でも頭でも、なんであれ武器へと成ることができる。このような状態でこそ、真価を発揮する。
「もういっ、ばつ!」
「っづ……!」
二回目の頭突き。それを受けてデルビートの額から血が流れるのを確認、こいつが血を流すところなんて初めて見た。
このまま一気に……
「っはは、楽しいなぁおい!」
「くっ……!」
しかし、物事はそううまくは運んではくれない。デルビートは不気味に笑みを浮かべ、三度目の頭突きをおみまいしようとする俺に、自ら頭突きを食らわせる。
俺とデルビートの額が、ぶつかり合う。




