三十六話 死の宣告
第四王女に、正体をばらされた。とはいえ、どうしても隠しておかなかったわけでもない。
俺を生き返らせたデルビートは当然、ラーミのような一部の人間も知っている。だから、問題はないのだ。
……たとえ彼女に、どう思われたとしても。
「アン、デッド……」
背後にいる彼女の顔は振り向かない限り見ることは出来ないが、その声は震えている。
それだけで、どんな表情を浮かべているのか、想像することは簡単にできた。恐れ、嫌悪……そういった類いのものを浮かべているのだろう。
いかに魔法という力がある世界であるとはいえ、死者蘇生など……そんなものは、あり得ない。それが常識だ。それが普通だ。死人が生き返るなど、考えられるはずもない。
「……」
「アンデッド……なによそれ、意味わかんないわ!」
俺がアンデッドだと知り、狼狽えるのは第四王女……ではなく、第二王女だ。ラーミに俺と第四王女を殺させるよう依頼し、その本人もラーミと共にここに来て……ラーミが死んだことで、本人は無力となり今、腰を落としている。
魔法を使えばほどほどに驚異なのかもしれない。が、戦闘訓練も積んでいない者では俺の敵ではない。自ら俺たちを殺しに来る勇気もないようだし、展開の巡りに着いていけないのか黙っていたため放っておいたが……
ここに来て、騒ぎ始めた。俺を、まるで……いや、実際に『化け物』を見るような目で見ている。
「そんなの、聞いたことも……なんなのよ、もう死んでいるって……なのに、生き返ったの? なんなのよ、気持ち悪い……もうあんたたちには近づかないから、関わらないから帰して!」
「お姉様……」
先ほどまで高圧的だったはずが、ずいぶん小さくなったものだ。まあ、そうなるのも無理はない。死者の蘇生など、不気味に思って当然だ。
今の第二王女のように激しくうろたえるか、第四王女のように言葉も失うか……その飯能は別々だが、決して好感は持たないだろう。
そう考えると、俺の正体を知ってもなお普通に接してくれたラーミの存在はありがたかった……のだろうか。いや、あれが普通の接し方とは思えないし、あいつの場合は例外と考えよう。
「あー、うるせえなあ」
そこへ……苛立ちを孕んだ声。それはここまでの流れを見ていた、デルビート・ロスマンだ。彼は無造作に髪を撫でつけると、冷たいくらいに鋭い視線を第二王女へと向ける。
「ひっ……」
「ぴーぴーぴーぴーと……そんなにここにいたくないなら、退場させてやるよ」
「え……っ」
……それは、一瞬の出来事だった。そこに立っていたはずのデルビートが、消えた……いや、消えるように移動した。
その先は、俺や第四王女の前ではない……だからだろうか、俺の体が反応することはなかった。息を呑むような声と、なにかが肉を裂く音が聞こえて……
「ぁ……」
「この世から、な」
第四王女の喉は、裂かれていた。デルビートが手にしたナイフにより。たった一太刀、それだけで第四王女の命が失われていくのがわかった。
ドサッ……
第四王女が、倒れる。その音でようっやく、なにかが起こったことを理解した第二王女が顔を動かして……
「……お姉、様……?」
すでに絶命した姉の姿を、目撃した。
なにが起こったのかわからない。しかし無自覚に、無意識なにかが起きたことは理解し……その理解に本能が追い付いた時、第二王女は悲鳴のような大声を上げる。
「さあて……お前ら二人とも、すぐに送ってやるよ。この小娘を同じ場所に」
ナイフについた血を振り払い、デルビートは薄く笑みを浮かべて言う。第四王女と俺への『死』の宣告を。




