三十四話 隠されていた真実
ラーミを下したかと思えば、よりによってデルビート・ロスマン……俺に暗殺を教えてくれた男が現れるとは。いずれ来るだろうとは思っていたが、まさかこんなに早く……
こいつの厄介さは、充分わかっている。正直、ラーミよりはるかに手強い。万全でも勝てるかわからないのに、今そのラーミとの戦闘で負傷し、背には第四王女もいる。
あちらで震えている第二王女はもう立ち上がるのも困難な様子だし、放っておいても問題はないだろうが……
「安心しろ、俺の狙いはお前だけだ。そっちの王女様に興味はない」
「……そうかい」
全然安心できない。後ろは気にせずかかってこいという意味なのだろうが、この状況じゃ下手には動けない。
それに、俺の体は……
「来ないなら、こっちから行くぞ!」
「っ!」
視界から、デルビート・ロスマンが消える。いや、消えるように移動しているだけだ。ラーミも使っていた、超高速移動。
デルビートほどの実力者となれば、予備動作は必要ない。まばたきの瞬間に体が消える。姿は見えない、ならば勘のみを頼りに……!
「っつ!」
「……ほぉ、よく防いだ」
そう呟くデルビートの右手には短刀が握られており、それは俺の首筋をかき切るために震われていた。それが首へと到達する寸前に、俺も短刀で受け止めるが、一歩遅ければ刃が首筋に届いていた。
「首を、いきなり狙ってくるとは……予想は、できてたからな」
「なるほど。ま、お前をちゃんと殺すには首を飛ばしでもしないと、無理だからな」
とても40代を折り返した者の力とは思えないほどに、力が強い。少しでも気を抜けば押しきられ、首が飛ぶ。
だが当然、警戒するのは目の前の刃だけではなく……
「くっ……!」
「おっ……」
デルビートが振り上げようとした左足を、とっさに足の裏で止める。その手には、拳銃が握られていた。
即座に首を落とせればよし、そうでなくとも見えない角度から拳銃で頭を撃ち抜けばよし……抜かりの、ないことだ。
「いいじゃないか、この状況で、周りがよく見えている」
「あんたに、教わったことなんでね」
暗殺者である以上、不足の事態に備え注意を怠るな……他ならぬデルビートから教わったことだ。
手首を足裏で止め、銃口は向かせない。
「……俺を、殺すのか」
「その道を選んだのは、お前自身だ」
そう答えつつ、デルビートは自ら距離を取る。バックステップを踏みつつ、俺へと弾丸を放つのも忘れない。
俺はそれを短刀で弾くが、気を抜くことは出来ない。だから……
「おい第四王女!」
「へ……あ、へ! って、こんな時でもそんな呼び方……」
「どっか身を潜めていろ!」
デルビートの狙いは、俺だ。あの男は俺しか狙わない……しかし、それで第四王女に危害が加わらないわけではない。今のように、弾いた弾丸が第四王女を傷つけてしまうかもしれない。
「お優しいじゃないか。これまで何人も殺してきておいて……その娘に情でも移ったか? いったいどんな理由だ」
「やかましい!」
今度は俺から仕掛ける。足を前に、走りながら周囲を観察する。デルビートに限ってある得ないが、もしかしたら伏兵が潜んでいるかもしれない。
が、そのような様子はない。
「おいおいどうした、そんなバカみたいに真正面から……」
「あんたに小細工が通用しないのは、わかってるんで」
「へぇ……」
どんな小細工を使ったところで、所詮この男に通用はしない。ならば、真正面からぶつかる。
真正面からなど、暗殺者にとって褒められた戦法ではない。そもそも、標的の前に姿を現した時点で……
ラーミはあんな性格だったから、正面から現れたのだろうが……デルビートも、こうして現れた。だからというわけではないが、そういう相手に小細工は意味のないことだとわかる。
「おらぁ!」
「!」
右手を握り締め、それをデルビートの顔面へと振るう。それをデルビートは、短刀や拳銃を使って受け止める……ではなく……
……なにもせずに、その頬に受け止めた。
「っ……」
「くく、いてぇ……だが、こんなもんか?」
口の端から血を流し、それでも笑っている。わざわざ拳を防がず、受け止めたことの意味を考え……結論に達した時には遅かった。
デルビートは、俺の右腕を捕らえていた。捕まえるために、わざわざ攻撃を受けた……それも、デルビートならそんなことはしなくても俺を簡単に捕らえられるだろうに。
まるで、力の差を教えるかのように。
「俺は本気で聞いてるんだ、アン。なんでお前が、あの娘にそこまで入れ込む? 俺を裏切ってまで、ついこないだ初めて会った小娘に」
「……それは……」
動けない。俺が抵抗できないのを知ってか、デルビートは問いかけてくる。それは、俺自身でも答えの出ないもの。
答えられない。そんな俺を見て、デルビートが怪しく笑った。
「それに……お前、そんなに入れ込んでいる相手に、自分の正体を隠したままってのはどういうことだ?」
「! ……話しても、必要のないことだ」
「そうかい、それなら……」
ぐぐ、と腕を掴む手に力が込められる。握り締める、ではない。まるで引っ張るかのような……
まさか……
「おい……」
「教えてやれよ、お前が……」
ぶちぶちぃ……と、嫌な音を立てて腕が離れていく。いや、正確には……千切れていく。
人の力で腕が千切れるほど、人体は脆くない。それは当たり前のことだ。だというのに、その当たり前さえぶち壊して……
「お前が、もう死んでいる……死人だってことをな」
悲鳴が、聞こえた。振り向かなくても、誰のものかはわかった。
隠していた真実が、明かされる。




