三十三話 刺すような殺意
激しい……背中を刺すような、気配。気配なんて生ぬるいものじゃない、殺気だ。それも、ラーミのそれとは比べ物にならないほどの。
ラーミとの戦闘で消耗していたとはいえ、油断はしていなかった。なのに、こんな近くに迫られるまで殺気に気付けなかったとは……
「……!」
咄嗟に振り向き、構える。姿は見えないが、確実に何者かがいる……それは、わかる。
周囲を観察し、落ちていた短刀を拾い、当たりを付けた場所へと投げる。一本の木だ。本来ならば木に突き刺さるはずの短刀は、なにかに弾かれたようにその場に落ちる。
そこになにかが……いや、誰かがいる。
「くく……よく気づいたな。俺の下から離れても腕は落ちていないようだ」
「……あんたは」
そこには木しかなかった……が、景色が歪む。そこに立体的ななにかが現れ、それが人の形を成していく。こんなことができるのは、俺の知る限り一人だけだ。それに、この声……
間違いない。そこにいるのは……
「……デルビート・ロスマン」
「なんだよ連れねーな、他人行儀な呼び方じゃねぇか」
姿を現した男……そいつは、いずれ来るだろうと予想はしていた。だが、まさかこんなに早く来るとは思っていなかった。
デルビート・ロスマン……同業者であり、7つでこの暗殺の世界に足を踏み入れた俺をここまで育ててくれた男。こんな世界で生き延びる術を、教えてくれた恩人だ。
俺は第四王女の依頼を受け、暗殺者にあるまじき行動を取った。それを知ったデルビートが、俺を殺しに来るであろうことはわかっていた。
「元気そうじゃねえか、アン」
「その呼び方、やめてくれと何度も言ったでしょう」
ただでさえ大柄で、強面な男が不敵に笑うと、なかなかに不気味だ。後ろから、「ひっ」と息を呑んだ第四王女の声が聞こえる。
顔に刻まれた傷、閉じられた右目に走った刀傷、蓄えたあごひげ……わかりやすいくらいの悪党面だ、第四王女の反応も当然だ。
「アル、フォードさん……あの人、って……」
「敵だ、それ以外覚えなくていい」
「あっさりしてるねぇ、俺は恩人だろう?」
ただそこに突っ立っているだけなのに、隙がない。殺意こそ感じないが、デルビートの実力ならば殺意を隠すことなど容易い。
俺を殺しに来た、のだろう。ラーミとの殺しあいに乱入されなかったのが救いか。それとも、わざと終わるまで待っていたのか?
「あの人……アルフォードさんのこと、アンって……あだ名、ですか?」
「不本意だがな」
「……でも……」
アルフォードならば、アンではなくアルではないのか……声は小さかったが、そういった意味の言葉が聞こえた。
くそっ、よりによって第四王女も一緒にいる時に……嫌な奴に、来られたものだ。




