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三十二話 依頼主の意向



「だ、ダメです!」



 腕を、掴まれた。後ろから、第四王女が俺の腕を掴んでいる。その目的はもちろん、俺を第二王女の下へ行かせないためだろう。



「しつこい奴だな、お前を殺そうとした人間を、生かしておく理由は……」


「そ、それよりも! アルフォードさん、怪我がひどいじゃないですか! 早く、治療しないと……」



 ……あきれた女だ、ここに来てそれを気にするのか。



「それは、あの女を放置してまで優先すべきことか?」


「っ、でも、その傷……」



 ラーミに刻まれた傷は、確かに浅くはない。このまま放置していれば、活動に支障をきたすだろう。治療は、必要だ。


 だが、ここで第二王女を放置してまで、優先すべきものではない。やるなら、殺したあとだ。


 相手は魔法を使う人間だが、関係はない。ただでさえ戦意が削がれている。殺すのに時間はかからない。



「わ、私の依頼は、私を守ってもらうことです! 殺しじゃないです!」


「……」


「い、依頼主の意向に、さ、逆らうんですか!?」



 震えながら、目の端に涙を溜めながら、これは依頼主(じぶん)の意向とは違うと話してくる。この女は、どうしても姉を殺されたくないのか……いや、それとも俺に殺しを、させたくないのか?


 バカな……そんなこと、考えているはずがない。いや、そもそもこれまで数えきれないほど殺してきた。今さら殺しのない解決法なんて、わかるはずもない。


 しかし……



「……そういう依頼なら、仕方ないな」


「……」



 第四王女がほっとしたのが、わかる。そんなに俺が殺しをやめたことが安心することなのだろうか。わからない。


 とはいえ、それが……殺すなというものが依頼に含まれているのなら、俺はそれには逆らえない。依頼に逆らうなど、これまでになかった。それが、暗殺者としての俺の生き方だからだ。


 もちろん優先順位は、第四王女の命を守ることだが。



「ひっ……」



 第二王女を睨み付けると、尻餅をついた状態で怯えている。これでは、もはや脅威にはなり得ない。少なくともこの場では。


 そして、第二王女に雇われたラーミは……すでに、絶命している。どこか、恍惚とした表情を浮かべて。死ぬ間際まで、気持ちよさを感じていたような表情だ。


 自分たちを殺しに来た、暗殺者……加えて、重度の変態。殺したことに後悔などはないが……共に仕事をしてきた仲だ、思うことがないわけでも、ない。



「さて……」



 ラーミには後で墓でも立ててやろう。元同僚として、どんな形であれ自分を慕っててくれた相手へのせめてもの手向けだ。


 で、だ。今やるべき事は……第二王女の処遇だ。殺しはしなくとも、このまま帰すつもりもない。本人に人を殺す意思がないとはいえ、また暗殺者を雇う可能性は充分に考えられる。


 捕らえてしまうのが一番だ。なので……



 パンッ!



「!? キャアアア!?」


「! あ、アルフォードさん……!?」



 俺は、懐に忍ばせていた拳銃で、第二王女の右足の太もも部分を撃ち抜いた。本人は絶叫し、第四王女も驚愕の表情を浮かべている。



「殺しはしない。が、逃がすわけにもいかない……この傷を治療してる間に逃げられないようにな。少しでも妙な動きを見せれば、今度は逆側を撃つ」


「ひっ……」



 これで、問題ないだろう。あとは、ラーミから負わされたこの傷を、治療して……そのあとは……あるいは、


 餌に第四王女を殺そうとしている他の連中もあぶり出すか……


 そう考えていた、時だ。



「……!」



 凄まじい殺気が、俺の背中を撫でたのは。

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