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三十一話 生かすか殺すか



 胸元に刺さった短刀のその刀身が、熱く温度を上げていく。刺さっているのは心臓がある位置、短刀だからリーチが足りずに心臓に達してはいないが、刀身が燃えるように熱くなればまた別の問題が発生する。


 体内から、温度を上昇されて機能を停止されられてしまう危険性だ。そうでなくとも、もしかしたら刀身から炎が出るかもしれない。いままでそんな素振りはなかったが、もしそんなことになれば……


 考えるまでも、ない。



「くっ……」



 このままでは、どちらにせよ体内から破壊される。その結末は避けなければ。


 短刀の柄を掴みなおし、思い切り引き抜く。幸い、すんなりと短刀を引き抜くことはできたが、思いの外傷が深い。刺し傷が心臓にまで到達こそしていないが、刺し傷がだんだん熱くなってくる。


 このままではいけないと、直感があった。



「がっ、ふ……!」



 直後、吐血。どこに貯まっていたのか、血の塊が地面へと吐き出される。今の傷の影響か、その血は赤黒い。


 く、そ……なんだか、ふらふらしてきた。気をしっかり持て。



「あぁはは、センパイにも、私が刻んだ傷が……はぁ、はぁ……」


「……まだ意識があるのか」



 腕一本斬り飛ばしたというのに、元気なものだ。もっとも、もう戦えまい……ラーミならば片腕がなくても戦えるだろうが、俺がそうはさせない。いくらラーミ相手でも、片腕のない相手が戦闘体勢に入る前に、それを止めさせることはできる。


 このまま放置、なんてことはできない。仕事に失敗するイコール死が暗殺の世界。俺はもう暗殺者とは名乗れないが、それでもラーミを生かしたまま帰すことはできない。それに、放置すれば必ずまた俺を殺しに来る。


 長剣を、握り直す。



「な、なにをしているの……立ちなさい! あんたには、安くない金を払ってるのよ!」



 ラーミへと、一歩近づく……そこへ、これまで傍観していた第二王女……ラーミの依頼主が、声を張り上げる。


 依頼主としてはまあ……当然の反応か。金は王女だからそれなりにあるだろうが……ラーミが死ねば、次は自分が殺されるかもしれない。その恐怖心もあるのだろう。むしろそれが上か。


 確かに、いかに第二王女の身内とはいえ俺たちの命を狙ってきた女を見逃す理由はないからな。放っても、また新たな刺客を送ってくるだけだ。むしろ、こうして今目の前に姿を現してくれたことを、ありがたく思うべきだ。



「ひっ……」



 さっきまでの威圧感たっぷりの態度はどこへやら。長剣の切っ先を向けただけで、怯えている。


 暗殺者を雇ったとはいえ、所詮は王族……平和ボケしたお嬢様か。




「こ、来ないで! やめて!」



 必死に来ないでくれと、叫ぶ。しかし、俺がその頼みを聞く道理はない。一歩一歩、近づいていく。



「ひっ……」


「待って、ください」



 しかし、一つの声が俺の足を止める。いや、声だけではない。その声の主は、俺の行く手を塞ぐように、正面に立ち、手を横に大きく広げている。


 ……第四王女が、そこに立っていた。



「どういう、つもりだ?」


「……その……姉様を、どうするん、ですか……?」



 うつむき気味だが、その表情が困惑しているだろうというのは、なんとなくわかる。



「殺す」


「! そんな……」


「? 元々あの女は、お前を殺すために暗殺者を雇ったんだ。俺もこの有り様だ。放っておけばまた別の暗殺者を雇うだろう。ここで殺すべきだ」


「で、でも……」


「お前を殺そうとした人間を、なぜ庇う?」



 このまま、問答をしているのも時間の無駄だ。今は怯え、腰が抜けてしまっている第二王女だが、それも時間の問題。このままでは逃げられるだろう。


 だというのに、第四王女は自分を殺そうとした人間を庇っている。意味がわからない。



「まさか、そいつが姉……血の繋がった家族だからか? バカな……その血の繋がった家族に、殺されかけたんだぞ」


「それ、は……」


「殺すべきだ。それで、お前を殺そうとした人間はいなくなる」



 このまま帰すという選択肢はない。かといって、殺さず連れ歩くわけにもいかない……ここで、殺した方が一番手っ取り早い。


 だから……



「ま、待て! 待って!」


「まだ命乞いか……見苦しい」


「ちがっ、違う! 私、だけじゃない……他にも、ティーラを殺そうとしている奴はいるわ! そ、そいつらも言うから、私は助けてちょうだい!」



 第四王女の横を過ぎ、第二王女を睨むが……出任せの命乞いか。本当にさっきまでの威勢はどこにいったのか。


 ……いや、万一出任せではない場合も、ある。第四王女は行方不明だと、家族ぐるみで国民を騙している連中だ。だとすれば、他に第四王女を殺そうとしている王女がいてもおかしくはない。



「ねぇ、だから……」


「必要ない。そもそも、第四王女を狙うのはお前含め、五人の王女の誰かだとは思っていた。もしかしたら女王も噛んでいるのかもな。だから、別に誰であろうと興味はない。お前のように、そのうち痺れを切らして姿を見せるだろう」


「っ……」


「それに……お前のような奴は、真実の中に嘘を混ぜ、こちらを混乱させる。そんな奴の言葉を信じる道理はない」



 平気で家族を、妹を殺そうとした人間だ。たとえその言葉が真実だったとして、そんな人間の言葉をどうやって信じられる。


 まだ他にいるなら、徹底的に返り討ちにすればいい。他に誰が狙っているか知ったところで、こちらから仕掛けることはないのだから。

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