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三十話 その決着は……



「殺しますよ、センパイ……次で、終わりです」



 その瞬間、場の空気が一変した。それとも、ラーミの出している雰囲気が変わったのか……おそらくどちらもだな。先ほどまでラーミは、仕事(ころし)をまっとうに果たそうとしながら、遊びを隠せないでいた。俺と遊びたいから、少しでも長く楽しんで痛いからという理由で。無論、手加減していたわけではない。


 だが、この瞬間よりお遊びの空気は消えた。仕事とお遊びで半分半分だったものが、仕事に全力を向けるようになった。


 ラーミは手加減はしていなかったが、それでも遊びの気持ちが入っているのと入ってないのとでは、その姿勢はまったく違う。要は、俺も全力でやらないと……一瞬でやられるってことだ。



「……」


「……」



 沈黙が、辺りを支配する。この緊迫感が伝わっているのかはわからないが、第四王女も第二王女も、言葉を発しない。黙って見ている。


 いつまでも、この時間が流れるのではないか……その時間は、しかし唐突に終わる。



「っ!」


「はっ!」



 どちらともなくその場から踏み出し、相手の喉笛目掛けて短刀を振るう。咄嗟に互いに顔を後ろに引き剣筋を回避するが、切っ先が触れたのか喉からわずかに血が流れる。


 そのまま後退……はせず、俺は長剣を、ラーミはもう一方の短剣を振るう。刃と刃、金属と金属がぶつかり合い、互いに拮抗。もう一方の得物を振るうが、それも同じくぶつかり合い、拮抗。



「ぐくっ……!」


「お前……!」



 こうして真正面からのぶつかり合いとなれば、性別、体格、共に俺に分がある。加えてラーミは体に深く傷を刻まれている。俺も腕を刺されたが、ラーミに比べれば軽い怪我だ。


 力を込めてくるのが、わかる。同時に、体から流れる血が、地面に落ち、赤黒く地面を染めていく。


 このまま力を込め続ければ、血は流れ続け、ラーミは死ぬ。それがわかっていながら、ラーミは全力だ。その顔は狂気に笑っている。



「ふん……!」



 一気に力を込め、ラーミを押しきる。軽く体を吹き飛ばすように押し、ラーミの体勢を崩し……長剣で、その体を真上から真下へと、斬る。



「……!」



 咄嗟にラーミは、地面を蹴って一歩後ろへ……しかしそれで斬擊を避けきることはできず、そらした顔を除き胸元から一直線に傷を刻む。


 数秒の後、刻まれた傷からは血が吹き出す。



「悪く思うなよラーミ、これが俺の選んだ道だ……」


「……さいっこうですよ、センパイ♪」


「!」



 即死でないにしろ、もう助からない傷……それを刻んだはずだ。だがラーミは不敵に笑い、右腕を真上に振るう。その手から放たれた短刀が、俺の胸元へと突き刺さる。



「っ!?」



 深く突き刺さったわけではない……が、その刃は熱い。先ほど見せた、火の魔法で刀身を熱くしているのか。それが、心臓のあるべき場所の近くへと、突き刺さっている。


 なんとか体をそらしたが、それでも先ほど腕に刺さったのとは訳が違う。なんと、体内に直接熱さが送られてくるようだ。



「こ、の……!」



 この短刀を抜かなければ……しかし、ラーミのもう片方の腕が動くのが見えた。今の動きと同じことを、するつもりだ。


 それをさせるわけにはいかない。だから俺は短刀を抜くのを後回しに、素晴らしく長剣を震い、短刀を手にしたラーミの片腕を斬り飛ばす。



「っ、あぁああぁ!?」



 腕が、斬られる……さすがのラーミでも、絶叫は抑えられないようだ。左腕が、地面に落ちる。そのままラーミは踏ん張ることもできず、仰向けに倒れる。その表情は、苦痛に歪みながらなぜか頬が赤かった。



「はぁ、はぁああぁっ……センパイ、の……刻んでくれた、一生消えない、傷ぅ……はぁあ、これ、すごぉ……!」


「……」



 本物かよ、こいつ……斬られた部分を押さえ、その場でもがいている。だがまあこれで、ラーミは本当に動けないはずだ。


 とはいえ、俺も……このまま放置していたら、まずいな。ひとまず、胸に刺さった短刀を抜いて……



「……!?」



 柄を握った、その瞬間……短刀のその刀身が熱く、熱く、熱く……まるで体内で火が燃え上がっているかのように、熱くその存在を主張し始めた。

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