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二十九話 生きてるって感覚



「……っ」



 目の前で、小さな体が鮮血に濡れていく。当然だ、その体を斬ったのは俺なのだから。


 腕に食い込むラーミの短刀、それをそのままに、逆の手でラーミの体を斬り上げた。小さな体からは、考えられないほどの多量の出血がある。



「きゃー!」



 後ろから叫び声が聞こえる。第二王女のものだ。目の前で人が斬られれば、このような反応にもなるか。


 これまで、襲ってきた刺客は第二王女の目の届かないところで始末してきた。だから、これが初めての……



「ぁ……うふ、ふふふふ……」


「?」



 のけぞり、そのまま後ろに倒れていく……はずだったラーミの動きが、止まる。聞こえてくるのは、まるで笑い声のような……いや、実際に笑い声だ。


 ラーミが、笑っている。今の一太刀で命まで奪えたとは思わなかったが、それにしたってこんなに愉快そうに笑うなんて……無理な、はずだ。


 痛みを誤魔化す薬でも飲んでいるのか、それとも……



「うふははは。あぁ、痛い痛い、ひどいですよセンパイ……あぁでも、今こうしてセンパイから傷をつけられるってのも、それはそれで悪くないですねえ。私とセンパイとで、お互いに傷つけあうなんて、繋がってるって感じがしませんか?」



 単純に、狂っているのか。知っていたが、改めてそう感じた。



「正直お前の相手はしたくないんだがな」


「あれれー、センパイともあろう人がずいぶん弱気じゃないですか」


「別の意味でな」



 共に仕事をしていた時は、ずいぶんと懐いてくれる可愛い後輩だと思っていたんだがな。ちょっとスキンシップが激しい時もあったが……人の体温ってやつは温かいものだと、案外悪くなかったんだがな。


 なんにせよ、俺の知るラーミではない……本性を隠していたのか、それとも俺が第二王女護衛のため仕事を抜けたから、爆発したのか。



「なんでもいい。だがラーミ……その傷じゃ放っておくと死ぬぞ」



 ラーミは笑っている。だがなにも、今の一太刀が通用していないわけではない。切り口からは多量の出血があり、とても軽いけがではない。動くどころか、まして立って笑うなんて……


 応急処置だけでも、した方がいい。でないと……だが、ラーミはその言葉に耳を貸しはしない。



「なぁに言ってるんですか。私たち暗殺者は、仕事を成功するか、でなければ死ぬか……失敗なんて許されない。成功か死か、そんな世界だってのはセンパイもわかってるはずですよ。対象を前にのんきに治療なんてしてる暇なんかないですよ」


「……」


「それに……せっかくこの赤い血が、私は生きてるって感覚を与えてくれるんです。今、私は生きてる……それを放り出すなんて、もったいないですよ。センパイが与えてくれる生……はぁ、この感覚、ロスマンさんや他の暗殺者にはわけてなんかやらない。私がセンパイを逃せば、他の暗殺者が来る……でもこの感覚は、絶対私だけのものなんですから」



 ロスマン……デルビート・ロスマンのことか。俺の育ての親のような存在で、暗殺の世界のトップに立つ男。やはり、あいつも他の暗殺者も俺を狙っているのか。暗殺の世界の、裏切り者の俺を。


 それに……生きてるって感覚、か。今俺の腕には、ラーミの短刀が刺さったままだ。そこからは赤い血が流れている。



「血が滾って、生きてるって実感するんですよ。あぁ、センパイにはわからないかなぁ、それとも、私みたいに大きな傷を受ければ……」


「黙れ」



 短刀を腕から引き抜き、長剣と二刀に持ち、ラーミへ斬りかかる。ラーミはとっさに懐から新たな短刀を取り出し、二刀で迎えうつ。


 短刀と短刀が、刃と刃がぶつかる。金属の鈍い音が響く。



「あっは、センパイ、そんなに出血してるのに……わりと深く刺したんですよ? それに、火属性の魔法で刀身を振れるだけでも泣き叫ぶくらい熱くして、それを刺したのに……泣くどころか、全然力が落ちないじゃないですか。感覚ってもんがないんですかー?」


「黙れ」



 先ほどはラーミの猛攻に、捌くしかできなかったが……純粋な力比べなら、負ける道理はない。



「えいやっ」


「!?」



 直後、目の前が激しく瞬く。その眩しさに、思わず目をつぶってしまい……ラーミの気配が、離れていく。


 一瞬の光。今のは、目くらましか……?



「あっはは、どうです? 火属性の魔法の応用で、目の前に火花を発生させる。一瞬だけですけど、目くらましには最適でしょ?」


「……わざわざ説明どうも。なぜ距離をとった。今のうちに俺の首を狩れば……」


「そんなつまらない真似しませんよ、それにセンパイならわずかな殺気で対処できちゃうでしょ。センパイを殺すその瞬間に殺気を抑えるなんて私、無理ですから。あ、この手はもう使えませんね。説明しなくてもセンパイなら気づいたでしょう?」



 ……剣術と魔法の組み合わせ化。存外に厄介だな。これまでのような暗殺の標的とは違い、同業者が相手だ。勝手が違うし、やりにくいったらない。



「っ……もっとセンパイと遊んでたいけど、依頼者様の目もあるし、この傷ふっかくて……もうそんな余裕ないかも」


「ラーミ……」


「殺しますよ、センパイ……次で、終わりです」

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