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二十八話 肉を切らせて骨を断つ



 ……ゆっくりと、それでも確実に追い詰められていく。



「ちっ……」


「こんなもんですかぁ。センパイぃ!」



 ラーミが狙ってくるのは、主に顔か腹。それも、急所となりえる部分だ。ラーミの動きは不思議と早くなっているようで、しかも俺の注意が散漫になればすぐに顔や腹以外の場所を狙ってくる。


 ただ斬るだけではない、フェイントもいれるようになっているとは……こんなやり方、以前のラーミならやらなかった……


 ……あるいはこれも、殺しあいを楽しむために身に付けた技術なのか。



「でも、どれもすんでのところで私の攻撃を弾いてる! さすがですよセンパイ!」



 なんとか、致命傷は避けている。それでも、かすり傷程度のものならいくらも刻まれてしまっている。


 このままじゃ、いずれ致命傷を受けてしまうのは時間の問題だ、なんとかしなければならない。それに……



「……!」



 ラーミの後ろで、この命のやり取りを見守っている第二王女。第四王女暗殺をラーミに依頼した張本人だ。今眉間にしわを寄せている彼女は、自ら第二王女を手にかけるつもりはないらしい。


 それは、姉妹の情によるもの……では残念ながらない。そもそもそんなものがあれば今、こんな状況にはなっていない。第二王女が手を出さない理由、それは単純に、自分の手を汚したくないから。実に高圧的あ御嬢様の考えそうなことだ。


 だが、いつまでもその姿勢でいるとは限らない。ラーミがさっさと俺を始末できないことに痺れを切らし、自ら動く可能性がないとは言えない。その場合、第四王女は護衛(おれ)なしで第二王女に抵抗できるだろうか……無理だ。先ほどの魔法の威力、とてもじゃないが第四王女に太刀打ちできるものじゃない。


 なので、第二王女の動きにも気を配らなければならない。妙な動きをしたら、止めるために。



「……ただそこに立ってるだけで、厄介なもんだな!」



 結局はラーミ、第二王女、二人に気を配らなければならない。それがこの状況を生み出しているとも言える。


 第四王女はもちろん戦いに身を投じるという経験などないし、その相手が実の姉であるならなおさらだ。相手が殺す気であっても、関係はない。


 ……と、泣き言を言っても仕方ない。このままではじり貧、ともなれば……



「……っつ!」


「おっ?」



 肉を切らせて、骨を断つ……というやつだ。あえてラーミの振り下ろした刃を腕で受け、得物の動きを止める。


 左腕を、短刀が振り下ろされる位置へと振り上げ、刃を受ける。鋭く熱い刃が、肌に食い込み抉ってくる。細い女の腕とは思えないほどの、凄まじい力だ。赤い血が、流れる。痛みは……



「ひゃっ……」



 この光景に驚愕の声を漏らすのは、俺でもラーミでも、第二王女でもない。後ろで見ている第四王女だ。まあ、気持ちはわからんでもない。


 こんなにも深く刺さった刃、肌から垂れる血……それは刺激の強すぎるものだろう。



「センパイ、なかなか大胆なことしますねぇ」


「言ってろ」



 瞬間は驚いた様子のラーミだったが、すぐに凶悪な笑みを浮かべる。だが俺は、その少しの間に生じた隙を見逃さない。


 今までラーミの短刀を防いでいた長剣、それを持ち直し……ラーミの体を、下から上に振り上げる形で、斬りあげていく。

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