二十一話 拠点移し
「えぇっ、ここを出るんですか!」
朝……目覚めた第四王女に、この後この村を出発することを伝える。予想通りの反応というかなんというか、驚いているのは確かなようだ。わかりやすいな。
「聞いてないですよ!」
「言ってなかったからな。準備をしろ」
一つの場所に留まる続けるのは、やはり危険だ。なにがあるか、起こるかわからない。動けるときに動いておかなければ。
準備と言っても、荷物なんかは基本現地調達だ。いざというときのために、得物さえあればいい。
「せっかくここでの生活にも慣れてきましたのにぃ」
「そりゃたくましいことだ」
王室育ちのお姫様、このような逃亡生活を無事送っていけるかと心配はしていたが……どうやら、取り越し苦労だったようだ。もっとも、この生活は自分で覚悟していたところもあるだろうから、弱音を吐くのはせめてものプライドが許さないのかもしれないが。
仮に弱音を吐いていたとしたら、ひっぱたいていたところだ。王女だろうと依頼主だとうと、関係のないことだ。
「これからは、こういうことがいつでもありうると考えておけ」
「うへぇ」
少なくとも、王国での騒ぎが一段落するまでは、今のような生活をしていた方がいい。二、三日で拠点を変えるやり方で。
まあ、第四王女の失踪など、そうだよ、簡単に収まる問題とは到底思えないがな。
「なんだか、私が依頼主なのにアルフォードさんの方が偉そうじゃありません?」
「生き残るためだ。城でぬくぬく育ったお姫様に従っていたら、一日と生き残れん」
「むぅ」
本来ならば依頼主の意向に従うのが俺の……暗殺者のやり方だ。己の仕事は、すべて依頼主の指定した範囲に任せる。誰かを殺せというのなら殺すし、そうでなければ殺さない。
だが、今回俺が受けた依頼は、この女を死なせないこと。そのためには、この女に従って行動しているようでは俺だけならともかく、この女はすぐに殺されてしまうだろう。
こうして簡易な服装に着替え、目立たないように暮らす。それでも顔を見られれば即バレるほどに、王女というのは顔が知れ渡っている。
混乱が大きくなればこちらとしては動きやすくはあるが……その混乱の元を抱えたままでは、動けるタイミングというものを見計らわないといけない。
「はぁい、済みました」
「よし」
ぶつくさと文句を言いながらも、しっかりと荷物を最小限にする辺り、やはり要領はいい。
この調子なら、すぐに慣れるだろう。城を逃げ出してからの生活にも、わりとすぐ慣れたみたいだし。適応能力があるってことだな。
さて……次の拠点を見つけたら、一度、王国へと戻って情報を集めるとするか。




